「キメえなと思った台詞でも、伝わることがあるのが小説のマジックです。勇気を持って言わせてみてはどうですか。所詮言うのは自分じゃないんだから(笑)」


※撮影:松蔭浩之
◆月山への道はるかなり/熱意と萌えはあるけれど/『むかしのはなし』とリライトの効用
――今回は、コロナウイルスの影響により2月以来、半年ぶりの講座となりました。今回はオンラインでの開講となっています。三浦さんは、以前は1月にお招きしていましたが、ここ3年は8月に来ていただいています。本来は、月山へ登る予定だったんですよね。
三浦 そうなんです。月山に詳しいかたに案内をお願いしていたんですが、残念です。2年前に八合目まで連れていっていただいたんですけど、去年は直前に足の親指の爪を剥いでしまって、介護していただきつつ麓を案内してもらいました。即身仏を何体か拝観して回って、楽しかったです。即身仏を拝観して楽しかったというのも不謹慎ですけど(笑)、いろいろ感じるところがあり、エッセイに書いたりもしました。3年越しで今年こそ登るぞと思って、散歩するときも足首に重りをつけたりして体力づくりをしていたんですけど、コロナのせいでダメでしたね。来年こそ行きたいと思っています。

――今回はテキストが多めになりましたが、読んでみての感想はいかがですか。
三浦 姉妹講座のせんだい文学塾も合わせて毎年読ませていただいていて、すごく面白いんですけど、今年も、どれも粒揃いの作品ばかりで、とてもよかったと思います。
――集英社コバルトのサイトで、小説の書き方についてずっと連載されていたのが、近いうち本になる予定なんですよね。
マナーはいらない小説の書き方講座」(集英社)
2020年11月5日発売:予約受付中
三浦 まだ詳しいことは正式には発表されてないんですけど、年内に出る予定です。私が「小説の書き方とは」なんて言っても役に立つわけないんですけど(笑)、本屋さんで見かけることがあったら、パラパラめくってやってください。
――もうサイトにはあまり残っていないようですが、連載していて、難しかったことはありますか。
三浦 そうですね、コバルトで短編小説新人賞を14年ぐらい、2ヶ月にいっぺん選考させていただいたので、かなりの数を読んできたんですけど、みなさんすごく熱意があるんですよ。面白い作品が多いんですが、「もう少しこうすれば、もっとよくなるのにな」ということが見えてもきました。小説をお書きになっていてつまずくポイントって、いくつかの傾向に分けられるのかもなと。それについて考えながら連載しました。何を書いたのかもうだいたい忘れちゃったんですが(笑)、たとえば構成の問題ですね。プロットは必ずしも立てなくてもいいんだけど、エンタメ小説で、とくに慣れてないうちは、立てたほうが書きやすい場合もあると思うんです。ところが、事前に構成を練ることへの苦手意識があるかたもいらっしゃるようで、プロットを立てずにいきなり書きだす。すると、登場人物への萌えはすごくあるのに、作品がなんとなくのムードで終わってしまう場合がけっこうあるんです。せっかくの登場人物をより活かすために、プロットを立てたほうがいいんじゃないかなあ、というケースですね。じゃあどういう発想とコツでプロットを立てればいいかとか。あ、もっと基本的な、人称の問題とか、視点の問題とか、そういうことも書きましたね。あと時制ですね。回想シーンと現時点のシーンで、「それ」とか「これ」とか指示代名詞の使い方を誤ると時制が混乱することとか、いろいろ書きました。だんだん思い出してきた(笑)。

――僕が最近、ツイッターで新人賞についてつぶやいたら、すごく反響がありました。講座や大学でいつも言っている基本的なことなんですが、みんな書き方の問題はよく知らないんですね。中には自分の書き方が絶対だと思っている人もいるし、難しい部分があります(※東北芸術工科大学文芸学科ウェブサイトに、新人賞に関するツイートをまとめました。題して「新人賞に知っておくべきこと、あれこれ」)。そこで僕がよくすすめるのが、リライトです。昔話を現代に置き換えて、自分の書きたいテーマや書き方を学ぶのが参考になります。そのために一番いいのが、三浦しをんさんの『むかしのはなし』(幻冬舎文庫)です。

「むかしのはなし」(幻冬舎文庫)
三浦 強引な話の持っていきかただなあ(笑)。これは昔話を元ネタにした短篇集なんですけど、一冊通して読むと、昔話はどういうときに発生するのか、いったい何があると昔話という形で出来事が語り継がれるのかということが、明らかになる仕掛けです。「なるほど、いま生きている私たちの体験や思いも、こうして昔話になっていくことがあるのかもな」と思っていただければなと願って書きました。それぞれの短篇は、元ネタにした昔話の原型をとどめないぐらいアレンジしているんですけど、キモの部分はちゃんと踏まえているつもりです。
◆究極的にはアドバイスはできない/とにかく小説について考える以外ない/時代の流れを感じた学生の反応
――大学の授業でもリライトをやらせているんですが、みんな頑張って変わったものを書いてきますね。桃太郎がSFになったり、ウサギとカメがスポーツものになったりとか(笑)。作家になりたい人は多いが、みんな個性が異なります。アドバイスするとしたら、どんな声をかけますか。
三浦 究極的には、アドバイスできないというか……。こういうときはこうしましょう、って一概には言えない。絶対のルールとか法則みたいなものはないので。作品にふさわしい人称視点を選びましょうとか、大枠の論理的な部分は説明しやすいし、把握もしやすいと思うんですけど、それを把握したらいい小説が書けるかっていうと……。それなら私もとっくに傑作が書けとるわ(笑)。理屈でアドバイスできないのが、難しいところですね。最終的には、小説について考えること以外ないと思うんですよ。考えることが足りない。それが、自分が書きたいと思う小説をうまく書けない、一番の理由だと思います。考えるためにどうすればいいかというと、いろんな小説を読むとかですね。映画でも漫画でも音楽でもいいんですけど、創作物に触れたときに、じゃあ小説ってなんだろう、小説だとどういう表現ができるだろう、と考える。ひたすら考えるしかないと思うんです。毎日、暮らしているときにも、自分が感じていること、周りの人がやっていること、すべてについて、もしこれを小説にするとしたらどうするか考えるというか。たぶんそれしかないと思うんですよね。自分についてはそこが肝心だなと思うし、小説を書く多くの人にとっても、そうなんじゃないかと思います。
――僕は、とにかくみんな読んでるサンプルが足りないと思うんですよね。だから、大学の授業なんかでも、とにかくいっぱい読ませる方針でやっています。それで考え方の幅が広がると思うんですね。
三浦 そうですね。下手の考え休むに似たりで、自分の世界だけで凝り固まって考えていても、絶対うまくいかない。自分が好きなものは何なのかを知るためには、いろんな人や作品と出会って経験したり感じたりしたうえで、考えを深めていくことが必要だと思います。自分が何を好きで何が嫌いなのかもわからず、ぼんやりしている人には、絶対になにかを書くことなんてできません。
――時代の雰囲気を感じるのは、大学のゼミ生に横山秀夫を読ませると、みんな「警察小説は初めて読みました」というんですよ。みんな読んでいない。びっくりしたのはね、藤沢周平が不人気なんです。学生には合わない。武家社会の、耐えに耐えるところだとか、耐え忍ぶ女性像に共感できないんですね。

三浦 ええっ、そうなんですか。驚きました。学生さんたちが言わんとするところもなんとなくわかるんだけど、藤沢周平が時代小説の中でも一番残ると思っていたから、ショックです。池波正太郎の『鬼平犯科帳』とか、あっちのほうが女性像とかはちょっとという気がしますけどね(笑)。司馬遼太郎とかもダメなのかな。どうしたらいいんだろう。
◆初めての直木賞選考会は/当落には時の運もある/熱量の高い作品と欠点の少ない作品と
――遅ればせながら、最年少での直木賞選考委員就任、おめでとうございます。選考会に出席されて、どんな感じでしたか。
三浦 どんな感じなんだろうと思っていたんですけど、ほかの選考会ととくに変わったところはなかったですね。選考委員の数が多いですが(笑)。今は9人か……。ほかの選考会は、多くても5人ぐらいですからね。昔は読んで来なかった人もいたという噂を聞いたことがあるんですけど(笑)、今はもちろんそんなことはなくて、みなさん読み込んでおられます。
――20年前に北方謙三さんが選考委員に加わってから、ガラッと雰囲気が変わったと聞いています。直木賞を受賞していない北方謙三さんに選考委員をお願いした文藝春秋が偉い。直木賞への信頼度がぐんと増しましたね。それはともかく、松本清張賞はオンラインに移行したそうですね。
三浦 直木賞の選考は現地でやりましたけど、松本清張賞はたしか緊急事態宣言が解除された直後だったので、オンラインでしたね。私は今年までなんですけど。授賞式も例年より遅い時期になって、現時点ではまだ行っていないです。
――選考会をやって、紙一重という感じがするんじゃないですか。三浦さんが推しても受賞できなかった作家もいるでしょう。落ちる作品の決め手みたいなものはありますか。
三浦 うーん、難しいですね……。たとえば、違う回に応募していたら受かっていたんじゃないか、ということもなくはないです。最終候補作にどんな作品が並ぶか、というのはまあ、運ですよね。あと、好き嫌いが分かれる小説って、私は良い小説だと思うんですけど、どうしても、傷のない小説に賞が行くときもあるんですよ。みんなが激推しするわけじゃないんだけど、すごくダメなところがあるわけでもないから平均点が高くなって、その対抗馬が好き嫌いの分かれる、評価の落差が激しい作品だと、多数決で負けることもある。推してる人の、熱量の総カロリーは絶対こっちのほうが高いんだけどなと思っても、欠点のないほうが勝つってことはなきにしもあらずです。

――僕も(最終候補作を決める)予選委員として面白い経験をしてきました。上にあげたいい作品が、二重投稿などで最終候補作から外されて、仕方なく、可もなく不可もない作品を代わりに最終候補作にする。まあ、受賞は無理でしょうと思った作品が、受賞してしまうこともありました。
三浦 そういうこともあるんですよね。こっちも選考を任されるからには、むちゃくちゃ読み込んでいきますし、ものすごく真剣に議論するんですよ。でもね、「えっ、待って待ってこっちのほうが絶対いいと思うんですよ、なぜなら!」と熱弁を振るっても、その作品が通らないことも当然あるんですよね。選考委員みんなそれぞれ推すポイントが異なりますから、「私は絶対に評価できない」というかたもいらっしゃる。そうすると、「まあ可もなく不可もなく、激しくダメだと言う人はいない」という作品が受賞することも、なきにしもあらずなんですよね。それも議論を尽くした結果でそうなるので、個人的にどうしても納得がいかないままだった、ということはないですが。
◆書きながらキャラと知り合っていく/キャラ配置のコツは凸凹コンビ/読者の感想との付き合い方
――まだまだお聞きしたいことはたくさんありますが、だいぶ時間が押しているので、そろそろ質疑応答に入りたいと思います。
男性の受講生 自分は『まほろ駅前』シリーズ(文春文庫)が大好きなんですが、とくに主人公たちのキャラクターの作り方が素晴らしくて、何回読み返しても新しい人物像が発見できる作品だと思っています。キャラクターはどのようにして作っていらっしゃるのでしょうか。

「まほろ駅前多田便利軒」(文春文庫)
三浦 ありがとうございます。書き始めるときにはそこまでみっちり決め込まないことが多いです。たとえば『まほろ駅前』は、多田という男と、そこに転がり込んでくる行天という男が主人公コンビです。この2人については、名前と年齢と家族構成、職歴ぐらいはざっくり決めて、多田は真面目で行天は破天荒、という程度の性格は考えたんですけど、それ以上深い部分は、最初は決められないもので、書き進めるうちに登場人物と知り合っていく感じなんです。あんまり最初から細かく決め過ぎちゃうと、書いていてわくわくしないというか、面白くない気がするんですよ。普段の人間関係でも、知り合っていくと第一印象とは違う面が見えてくることって、よくありますよね。この人こういう人なんだな、というのがいい意味でも悪い意味でも見える瞬間がある。それによって相手への理解が深まっていくというか。それは架空の人物でも同じで、作者自身であっても、その人物のことを最初はよく知らない。でも読者と一緒の立場で、その人物について書きながら知っていくのが面白いというか、コツかなと思うんですよね。

「まほろ駅前狂想曲」(文春文庫)

「まほろ駅前番外地」(文春文庫)
女性の受講生 自分で書いていてもキャラクターが立たないというか、性格がぶれているように感じることがあります。書いていて、もともとの設定と違うことを言わせているんじゃないか、と思うようなことはありますか。あるいは、ちゃんと気づいてお直しになることもあるのでしょうか。
三浦 えっとね、加減が難しいんですけど、たしかにさっき私は、登場人物の細かい性格や設定については、あまり考えずに書くと言いました。でも、人物の配置をどうするかについては、事前にけっこう考えておきます。配置というとシステマティックに聞こえるかもしれないんですけど……。小説に取りかかるときに、何を書きたいのかなんとなく見えていなかったら、うまく書き進められないと思うんですよ。こういうことを書きたい、というもやもやしたものが、漠然とご自身の中にありますね? それをより把握し、明確にしていくために、必要だったら下調べをしたり、プロットを立てたりします。その一環として、登場人物をどう配置すれば、表現したいもやもやしたものを、より際立たせ、活かせるだろうか、ということを事前に考えるんです。すると、ストーリーの中で登場人物の性格がブレにブレまくる、という事態を減らせます。
 あ、もう一つの簡単なコツは、登場人物に対照性を持たせることです。明るい人と暗い人とか、社交的な人と引っ込み思案の人とか。そうすると話が転がりやすいんですよ。その転がりによって、実は社交的に見えた人の中にあるわだかまりが、見えてきたりもする。そこがドラマ作りのキモ、劇的なものを見せるポイントになってくると思うんです。つまり、対照性を持たせることで、登場人物同士がいい具合に作用しあって、生き生きしてくる。同時に、ストーリーを展開させるための心理的葛藤も生じさせられる、というわけです。

 もし、主人公のセリフや行動が、それまでの言動とブレているように感じるのでしたら、原因として推測されることは二つあります。ひとつは、お書きになりたいことを表現するためにふさわしい、登場人物の配置になっていなかったという可能性。もうひとつは、登場人物が生き生きしはじめて、予想もしていなかった一面を見せたため、作者ご自身が驚いておられるだけという可能性です。前者の場合は、登場人物の配置をもう一度考えてみたほうがいいと思います。後者の場合は、こんな人だったっけ、とどうしても拭いきれぬ違和感があるのでしたら書き直したほうがいいし、ポジティブな驚きを感じられたのでしたら、そのまま書き進めてみていいんじゃないでしょうか。
 私の場合は、セリフの言い回しぐらいならその場で直すことはあるんですけど、この人こんな人だったっけ、みたいなことはほぼないです。その話にふさわしい、必要な人物を、どこにどう配置すればいいか、細かい性格までは掘り下げてないですけど、最初に考えて書いているからです。
 身も蓋もないこと言えば、「登場人物が生き生きと動きだす」というのは言葉の綾で(笑)、あくまでも自分の脳が生みだした人物なので、「こんな人だったなんて!」という鮮烈なまでの驚きはないんですよね。逆に、あったらおかしくて、自分の脳が別人に乗っ取られてる可能性を疑わないといけません(笑)。でもこれって、現実の人間関係においても同じですよね。もちろん、「こういう人なんだ」というある程度の驚きや発見はある。しかしそれも、よく考えてみれば、それまでのつきあいや言動から、まったく予想がつかなかった、というわけではないことが大半でしょう。登場人物と作者の距離感や関係も、それと似たものがある気がします。
女性の受講生 SNSを見ていると、商業デビューしたけど感想が来ないから筆を折った人とか、読者からお金をもらって感想文を書いて作者に届ける「感想屋」とか、創作者と感想にまつわる話題を見かけます。三浦先生も、嬉しい感想や嬉しくない感想があるかと思いますが、創作者は読者の感想とどうつきあうのが健康なのか、ご意見をお聞きしたく思います。
三浦 感想屋? っていうのは初めて聞きました。そうまでして感想を送ったり表明したりしてくれようとするかたがいらっしゃるとは(笑)。すごい世の中だなあ。私はSNSをやらないので、時代に取り残されててその辺は全然わからないけど。
 基本的に、著者のもとに感想はあまり来ないです。20年前、私が小説家になったころは、まだファンレターの文化が細々と残っていて、書いて送ってくださる方はいました。すごく嬉しかったし、今でも大切にとってあります。でもね、ネットの普及とともに、ファンレターってほぼ来なくなりましたね。分母が大きい売れてる人には、今もそれなりの数が来るのかもしれませんが(笑)。
 私はSNSもやってないし、ホームページもないので、感想を届けていただく手段がテレパシーぐらいしかないんですよ。だから、新刊が出ると読書メーターとかで感想を見るんですが、中には心が傷つく感想も結構あります。でも、私の場合は自分から見にいってるんで、どうしてもいやだったら覗かなければいいし、電波系みたいなファンレターは出版社の方が止めてくれるでしょうしね(笑)。感想の有無を、それほど気にしなくてもいいんじゃないかなと思います。感想がないから筆を折る、というのは私には信じられませんね。どんだけけなされても、感想がなくても、書きたくなったら書くもんですよ。依頼がなかったら、私は同人誌を書きます(笑)。そういうものだと思うんです。

◆「言うのは自分じゃないんだから」/読者のことが気になりはじめるのは上達の第一歩/どんどん書いて、自分に合ったコツを見つける
――さて、通常の講座ならそろそろ終わりの時間となりました。いつもならこれから会場でサイン会があって、懇親会、二次会と続くところですが、そうもいかないので、この辺で終わりにしましょうか。
三浦 私は時間あるんで大丈夫ですよ。もしご質問のある方がいらしたら、どうぞご遠慮なく。
――では、お言葉に甘えて、もう少し続けましょう。質問のある方、どうぞ手をあげて。
女性の受講生 私は、会話文を書くのがすごく苦手です。書いているうちに、「こんなこと言うやついねえよキメえな」と、自分で考えた台詞にすごい嫌悪感をおぼえてしまって、会話を書くことを避けてしまっているのですが、三浦先生は、どのようにして登場人物の掛け合いを書いていらっしゃるのでしょうか。
三浦 コバルトで「小説の書き方」の連載をしていたときにも、会話文について書いた回がありました。難しいですよね、会話文って。理屈で劇的に改善できるものでもないし、人によって好みも全然違いますしね。同じ会話を読んでも、読者によって捉え方が全然違うので、こうするといいよというセオリーはないんですけど、「こんなこと言うやついねえよキメえな」というときは、キモさの度合いにもよるんですけど(笑)、振り切って、思い切って書いたほうがいいことも結構あります。
 躊躇するお気持ちはわかるんですよ。私も小説を書き始めたころは、決め台詞っぽいものをなかなか書けなくて、「こんなこと日常生活で言わないよな」と悩みました。でも、小説の場合は、日常生活で言わないことでも言わせたほうが効果的っていうことも結構あります。小説って声も聞こえないし表情も見えないじゃないですか。そうすると、登場人物の心の高まりを直接的に表すには、台詞で語るしかないわけです。キモくても、キメキメの台詞を言わせちゃったほうが、読者が「はわわ、そうか!」ってなるぐらい伝わることもあるんですよ。それが小説のマジックです。そのためには人物が魅力的じゃなきゃいけないし、台詞の言い回しもできるだけ自然でなきゃいけないんですけど、照れを振り払って書いたほうがいいときも結構あると思います。勇気を持って言わせてみてはどうですか。所詮、言うのは登場人物で、自分じゃないんだから(笑)。

女性の受講生 基本的なことですが、エッセイを書いているとき、自分の思いが先走って読者のことを考えていないのではないかという思いにとらわれることがあるのですが、そんなときどうすれば、いい方向に修正できるのでしょうか。
三浦 それは、非常にいい傾向です。そう思ったら、冷静になってから読み返して推敲する。それしかないです。自分の思いの高まりのままに書いて、それで満足するなら日記を書けばいいのです。そうじゃなくてエッセイとして完成させたいのであれば、「これで読者に伝わるかな」と一歩引いて考えてみることが必要です。一晩たって熱狂が冷めてから読み返して、どうすれば読者により伝わるか考えながら推敲する。それがすごく大事なんです。「読者のことを考えていないのでは」と思うようになったのは、上達への大きな第一歩です。
男性の受講生 自分は今まで本を読むのが好きで、書き始めたのは最近なんですが、小説の書き方について勉強するうえで、書き方についての本を読むときに心かげておくべきことがあれば、お話をうかがいたく思います。
三浦 難しいですね……。私は小説の書き方についての本を今度出すんですが、実は、他のかたが書いた「小説の書き方本」を読んだことがないんですよ。読んでないのに書くなっちゅう話で、面目ないんですが。
 多分なんですけど、小説の書き方本って、人称についてとか、構成をどう立てるかとか、説明されてますよね? そういうところは参考になると思います。大枠のテクニックについては、わりと理屈で説明しやすい部分なので。
 もちろん、理屈を把握しただけではだめで、実践しながら試行錯誤していかなければなりませんが、そのときに役に立つ「小説の書き方本」って、あるのかなあ……。それに関しては、自分に合ったやり方を自分で見つけて、工夫していくほかない気がします。さっき申しましたとおり、どういう登場人物にするかとか、どういう台詞回しにするかとかも、それぞれの好みに大きく左右される部分ですしね。
 大枠の方法論というかテクニックをつかんだら、あとはとにかく、ご自分で考えながら、どんどん書いていくしかないと思います。その積み重ねで、ご自分に合ったコツが見えてくるはずです。
――小説の書き方本でいえば、僕がおすすめしたいのは、ディーン・R・クーンツの『ベストセラー小説の書き方』(朝日文庫)と、日本推理作家協会編『ミステリーの書き方』(幻冬舎文庫)です。みんなバラバラなことを言っていますが、自分が一番気に入ったものを拾えばいいんです。

 さて、そろそろ質問も出尽くしたようですね。今日は初のオンライン講座ということもあって、いつも以上に長時間にわたってお話をしていただきました。およそ3時間弱。こんなの初めてですね。本当に長時間ありがとうございました。
三浦 この後の懇親会がなくて、みなさんと飲めないのが残念です(笑)。みなさんありがとうございました。またの機会にお会いできるのを楽しみにしております。
【講師プロフィール】
◆三浦しをん(みうら・しをん)先生
 1976年、東京都生まれ。2000年『格闘する者に○(まる)』でデビュー。2006年『まほろ駅前多田便利軒』で直木賞、2012年『舟を編む』で本屋大賞、2015年『あの家に暮らす四人の女』で織田作之助賞、2018年『ののはな通信』で島清恋愛文学賞&河合隼雄物語賞を受賞。また、2019年には、植物学専攻の大学院生を描いた『愛なき世界』で、作家としては初めてとなる日本植物学会賞特別賞を受賞する。受賞作以外にも多数の小説・エッセイを発表。現在、コバルトノベル大賞、R-18文学賞、山本周五郎賞の選考委員。今年3 月に直木賞の選考委員に就任された。本講座の講師は2012年からスタートして、今年で9回目となる。
●マナーはいらない 小説の書き方講座(集英社)2020年11月5日発売予約受付中
●愛なき世界(中央公論新社)※日本植物学会賞特別賞受賞
●ののはな通信(角川書店)※島清恋愛文学賞 河合隼雄物語賞受賞
●まほろ駅前多田便利軒(文春文庫)※直木賞受賞
●舟を編む(光文社文庫)※本屋大賞受賞
●あの家に暮らす四人の女(中公文庫)※織田作之助賞受賞
●まほろ駅前狂想曲(文春文庫)
●まほろ駅前番外地(文春文庫)
●のっけから失礼します(集英社)
●神去なあなあ日常(徳間文庫)
●神去なあなあ夜話(徳間文庫)
●きみはポラリス(新潮文庫)
●天国旅行(新潮文庫)
●風が強く吹いている(新潮文庫)
●ビロウな話で恐縮です日記(新潮文庫)
●仏果を得ず(双葉文庫)
●悶絶スパイラル(新潮文庫)
●光(集英社文庫)
●政と源(集英社オレンジ文庫)
●格闘する者に〇(まる)(新潮文庫)
●お友だちからお願いします(だいわ文庫)
●本屋さんで待ちあわせ(だいわ文庫)
●木暮荘物語(祥伝社文庫)
●三四郎はそれから門を出た(ポプラ文庫)
●ふむふむ おしえてお仕事!(新潮文庫)
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