令和2年2月8日(土)、山形県生涯学習センター&山形小説家・ライター講座コラボ企画、作家トークショー「森見登美彦&深緑野分 -創作と想像力-」が、山形市遊学館で開催されました(主催/公益財団法人山形県生涯学習文化財団&山形小説家・ライター講座、後援/ピクシブ株式会社)。今をときめく人気作家の豪華な組み合わせとあって、会場のホールは開場前から多くの聴衆が詰めかけ、瞬く間に満員となりました。

 今回のトークイベントは、平成23年の北方謙三&大沢在昌トークショー、24年の小池真理子&川上弘美トークショー、25年の椎名誠&北上次郎トークショー、26年の逢坂剛&諸田玲子トークショー、27年の阿部和重&中江有里トークショー、28年の角田光代&井上荒野&江國香織トークショー、29年の桜庭一樹&辻村深月トークショー、昨年度の米澤穂信&朝井リョウトークショーに続き、9年目の開催となります。
 司会は、今年もフリーライターの瀧井朝世さんがつとめられました。

 森見さんの大ファンだという深緑さん。お二人の初対面は、森見さんのトークイベントに深緑さんがお客さんとして参加したときだそうです。そのとき森見さんは、深緑さんに対して、作品から受ける硬質で重厚なイメージと、ご本人のやわらかなお人柄とのギャップに驚かれたそうです。
 そんなお二人に、今回のテーマである想像力について、おうかがいしました。お二人とも、子どものころから想像力が豊かで、身の回りのものをさまざまに見立てて遊んでいたそうです。そして長じて小説を書かれるわけですが、その過程で影響を受けた作品について深緑さんは、それらは自分の方向性を決める羅針盤みたいなもので、同じ方向に進むわけではなく、それなら自分はこちらに行こうというひとつの基準になるようなものと表現されていました。それを受けて森見さんが、ご自身と同じく近畿地方を舞台にした奇想天外な小説で人気の作家さんの名前を挙げて、「僕が万城目学さんと道が被らないように気をつけているのと同じですね」とおっしゃったときは、場内が笑いに包まれました。

 お二人とも、文章についてのこだわりももちろん強く、森見さんは学生時代に内田百閒など日本の近代文学に触れ、ストーリーやテーマより文章で世界を作ることにこだわるようになってから、いい作品が書けるようになったそうです。深緑さんは、書くときに言葉をひねり出すのがとにかく大変で苦しい、とおっしゃり、分厚い『ベルリンは晴れているか』全体の中で、うまく書けたと思うのは1行か2行ぐらいだとのこと。その厳しく真摯な姿勢に、会場からもため息が漏れるほどでした。

 森見さんも、深緑さんも、小説家として、キャリアの危機ともいえるスランプ・休止期間を経験されています。その期間の過ごし方や抜け出し方について、森見さんの『熱帯』が雑誌連載時から単行本が刊行されるまでのことを例に挙げながら、お話していただきました。『熱帯』は小説についての小説であり、小説を書くということについて書く作品なので、その成立にはたいへんな苦労があったそうです。森見さんはその創作について「血で血を洗うような」と表現されていました。この作品について、ツイッターでたいへん熱く絶賛したのが話題になった深緑さんは、その世界の中に読者を引きずり込む危険な小説であり、そんな危険な作品を書くことは小説家にとってのあこがれである、と語っておられました。深緑さんもいつかきっと、読者を引きずり込むような危険な作品を書かれることでしょう。ファンの期待はますます高まります。

 瀧井さんが、想像力という点で影響を受けた作品について、お二人に質問されました。森見さんはスタニスワフ・レムの『ソラリス』において、ソラリスの海に巨大な赤ん坊が出現する場面を挙げ、人間には理解できない現象を、見たまま書いているかのように描く客観的な筆致に感銘を受けたそうです。深緑さんは、トールキンの作品において、人間やエルフ、闇の一族などいくつもの種族の、それぞれの文化や言葉が作られていることを例に、想像力とは論理的思考によって世界を構築していくことではないか、とおっしゃっていたのが、たいへん印象的でした。

 トークショーの終わり近くには、お互いへの質問をお聞きしました。森見さんからの質問は、深緑さんの『ベルリンは晴れているか』において、本文は一人称、幕間は三人称で書かれている理由について。一人称で書けることと書けないこと、一人称でしか書けないこと、またその逆について、深緑さんは丁寧な解説をされ、主人公に感情移入してほしい部分と、客観視してほしい部分によって書き分けていることがわかりました。一方の深緑さんは、質問ではなく森見さんへのリクエスト。お二人が初めて会ったイベントの打ち上げで聞いた、森見さんが見たという不思議な夢の話を、この会場でも披露してほしいとのこと。人間に化けていた白い象が石畳の広場で暴れている、異国風の街で、謎の本である『熱帯』について知っている男の人を訪ねる、というその内容はまさに森見登美彦ワールドで、ホールを埋め尽くした聴衆のおそらく全員が、その話を森見さんの文章で読みたいと思ったことでしょう。

 そして、この日のトークショーの締めくくりに、会場のみなさんからおふたりへの質問が募られました。先達の文章からどのように影響を受けどのように自分の文章を確立するべきか、作品の中で語られる「名言」について、作者が作品についてどこまで語っていいのかという矜持、小説を書くという行為についてのイメージなど、それぞれの質問におふたりが真摯に答えて、学ぶことの多いトークショーは終わりとなりました。
 終演後にはサイン会も開催され、おふたりのサインを求める方々の長蛇の列に、改めて作家としての人気と実力、トークでもファンを引きつける魅力を確認した、冬の山形での一日となりました。





【作家プロフィール】
◆森見登美彦(もりみ・とみひこ)氏(山本周五郎賞作家)
 1979年、奈良県生まれ。京都大学農学部大学院修士課程修了。2003年、『太陽の塔』で日本ファンタジーノベル大賞を受賞し、小説家デビュー。2007年『夜は短し歩けよ乙女』で山本周五郎賞を、2010年『ペンギン・ハイウェイ』で日本SF大賞を受賞。『四畳半神話大系』『有頂天家族』『有頂天家族 二代目の帰朝』はTVアニメ化もされた。主な著書に『四畳半王国見聞録』『聖なる怠け者の冒険』(2014年第2回京都本大賞受賞)『夜行』(2017年第7回広島本大賞受賞)。また、2019年『熱帯』が直木賞候補となる。
●熱帯(文藝春秋)
●夜行(小学館文庫)※広島本大賞受賞
●夜は短し歩けよ乙女(角川文庫)※山本周五郎賞受賞
●ペンギン・ハイウェイ(角川文庫)※日本SF大賞受賞
●四畳半神話大系(角川文庫)
●太陽の塔(新潮文庫)※日本ファンタジーノベル大賞受賞
●有頂天家族(幻冬舎文庫)
●有頂天家族 二代目の帰朝(幻冬舎文庫)
●四畳半王国見聞録(新潮文庫)
●聖なる怠け者の冒険(朝日文庫)※京都本大賞受賞
◆深緑野分(ふかみどり・のわき)氏(第9回Twitter文学賞作家)
 1983年神奈川県生まれ。2010年、第7回ミステリーズ!新人賞にて短篇「オーブランの少女」が佳作入選、2013年に短篇集『オーブランの少女』(東京創元社)が刊行されデビュー。その他の著作に、『戦場のコックたち』(東京創元社)、『分かれ道ノストラダムス』(双葉社)、『ベルリンは晴れているか』(筑摩書房)がある。
●オーブランの少女(創元推理文庫)
●戦場のコックたち(創元推理文庫)
●ベルリンは晴れているか(筑摩書房)
●分かれ道ノストラダムス(双葉社)
◆瀧井朝世(たきい・あさよ)氏(フリーライター)
 1970年生まれ。東京都出身。出版社勤務を経てフリーライターに。WEB本の雑誌「作家の読書道」、文春BOOKS「作家の書き出し」、『週刊新潮』『きらら』『波』『anan』『クロワッサン』などで作家インタビューや書評を担当。TBS系「王様のブランチ」ブックコーナーのブレーン、横浜BUKATSUDO「贅沢な読書会」モデレーター。著書に「偏愛読書トライアングル」(新潮社)「あの人とあの本の話」(小学館)、監修に岩崎書店〈恋の絵本〉シリーズ。
●偏愛読書トライアングル(新潮社)
●あの人とあの本の話(小学館)
●恋の絵本(1)すきなひと 桜庭一樹(著)瀧井朝世(編集)嶽まいこ(イラスト)
●恋の絵本(2)すきっていわなきゃだめ? 辻村深月(著)瀧井朝世(編集)今日マチ子(イラスト)
●恋の絵本(4)こはるとちはる 白石一文(著)瀧井朝世(編集)北澤平祐(イラスト)
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