累計60万部の大ヒットミステリー『0能者ミナト』で知られる葉山透さんのピクシブ文芸書き下ろし連載企画がスタートしました!
ドSお祓いコンサルタント・高橋健一が活躍するミステリーで、『0能者ミナト』の人気キャラクターも登場するクロスオーバー作品の第4回です。
第1回はコチラ

  5

 玄関の前には、さっきからかわらず、すごい形相で睨みつける松本大悟の幽霊が立っている。
 潤は霊の前まで行くと自分の気持ちと重ねて、話しかけ始めた。霊の気持ちによりそうことで、流れてくる記憶がより深くなることを経験から学んでいる。

「好きな人に婚約者ができた、その気持ちはよくわかります。俺だって自分の好きな人に婚約者が出来たとき、すごいショックでしたから。祝福するって言ったけど、本当は毎日もんもんとしてました」

 後ろに頼りになる霊能者が一人増えたおかげもあってか、さっきまで怖かった霊はそれほどにも感じない。
「でも死ぬことはないじゃないですか。どんなに悲しくても恨んでいても、自分が死んじゃったらもともこもない」
 そこまで語りかけて何か違和感があった。

 ――あれ?
 確かに見た目は怖いし迫力こそあるが、感じる雰囲気は考えていたものと少し違っていた
「言ったでしょう。見た目と違うって」

 ユウキは邪魔をしないように背後で息をひそめていたが、このときだけ小声でささやいた。
 潤は意を決すると、幽霊に向かってさらに一歩踏み出す。真正面から睨まれたにもかかわらず怖くはない。ユウキの言葉に嘘はなかった。見た目とは裏腹に殺意も敵意も流れてこない。それは表面的なものだった。

「化けて出てるのには、なにかわけがあるんですよね? 教えてください。あなたの好きな人を、これ以上傷つけないためにも」
 後ろを振り返ると、ユウキは指で複雑な印を結んでいる。その姿はとてもさまになっていて、霊と魂を触れ合わせる恐怖を吹き飛ばすのに充分だった。
 すっと伸ばした潤の右手の指先が霊の体に触れた。同時に視界が暗転して霊の記憶が一気に流れてきた。

「すごい、本当だったんだ」
 意識が遠くなる前に、ユウキのつぶやきが聞こえてきた。

 目をさますと庭のベンチに横たわっていた。傍らにはユウキとハルトの姿がある。
「お兄さん本当だったんだね。その能力はレア中のレアだから大事にした方がいいよ。総本山の千年以上の歴史の中でも片手で数えられるほどしかいないはずだから。つまり数百年に一人の才能だよ」

 何か言っているが意識がまだはっきりとしないのでよく理解できなかった。
「僕も勉強になったし」
「あ、うん。なんかいつもより気分悪くないや」

 起き上がり、何度か頭をふって記憶を整理する。
「はい、これ」

 ハルトが冷たいコーラの缶を差し出してくれた。暑さの中、喉をとおる炭酸が気持ちいい。
「ありがとうございます。ユウキ君もありがとう。おかげで記憶もはっきりたくさん見ることが……できた……のかな?」
 記憶が明確になっていくにつれ、潤の言葉が尻すぼみになる。

「できてたよ。でも見えた記憶があれかあ……。もうちょっとこう、ドラマを感じるものがよかったなあ。あ、いや、ドラマっていえばドラマなのか……」
「えーと、じゃあ、あれがやっぱり真相なの?」
 ユウキの表情がとても微妙なものになる。自分も同じような表情をしているに違いない。

「ねえねえ、僕には見えなかったよ。何がわかったの」
「春吉さんはもう少しちゃんと修行しなよ」
「春吉って……、ごめんなさい。はい、もっと精進します」

「約束通り魂は守ったよ。やってみてって頼んでおいてなんだけど、あまり頻繁に使わない方がいいかもね。お師匠さんによく相談するといいよ。あー、でもいいな。すぐ近くに頼りになる年上の人がいるって。おっさんなんて……、あ、まずい。約束の時間に遅れる。また南雲に怒られる。じゃあ、ぼくはこれで」
 ユウキはじゃあと言って颯爽と立ち去ってしまった。

 残された潤は途方にくれてつぶやくしかない。
「どうやれば解決するんだ、これ?」

 6

 数日後の週末。山手の屋敷に関係者達が集まった。
 橘嵐士と仁科優奈はもちろんのこと、ハルトと潤、そしてユウキの姿まであった。
「気になっちゃって。きてみた」

 なんで子供が二人もと言う顔をする橘に、
「二人ともとても優秀な霊能者なんです。僕よりずっと」
 とハルトがフォローする。言葉そのままなのが切ない。

「私がいるときには出てこないんだ。なぜだかね」
 霊をまだ見ていない嵐士は余裕の表情だ。ハルトはそそくさと嵐士のそばによっていった。

「ハルトさん、真相知ってるのに。もう怖くないはずじゃない?」
 そっと耳打ちをするユウキ。

「怖がってるって誰のこと? 僕は依頼人を守る義務があるんだよ」
 依頼人は優奈さんのほうじゃなかったかと思わないでもなかったが、そこは言わぬが花だろう。
「大悟君。出てきて。おねがい」

 その横で優奈は目に涙を浮かべて呼びかけている。
 優奈は優秀な秘書というイメージそのままの、スラリとした知的な美人だ。それでいて優しそうという男の子の理想のような女性で、大悟の気持ちも理解できる潤だった。
 感動的なシーンの後ろで、わざわざ呼ばなくていいよとつぶやくハルトがいろいろ台無しにしている。

「恨み言なら聞くから。ごめんね、大悟君」
「えっと、優奈さん、違います。大悟さんは誰も恨んでなんかいません」
 垣間見えた記憶からわかったことはいくつかある。でもまっさきに解かないといけない誤解はこれだろう。
「恨んでいないって、だったらどうして恨みがましく、新居の前に立ってるんですか」

 嵐士はどこか冷めた顔でやりとりを聞いている。霊を見ていないのだから信じきれないのは当然だろう。
「あんな恐ろしい姿になってるのよ。恨み以外のなにがあるの?」
「お二人を救いたい気持ちです」
「え?」

 思いがけない潤の言葉に優奈は思わず言葉をつまらせる。それまでどこか人ごとのように聞いていた嵐士も、このときばかりは興味を向けてきた。
「どういうことだ?」

「恐ろしい霊のふりをすることで、橘さんや優奈さんが入れないようにしていたんです。すごく怖がらせれば、優奈さんはここに住まない。なんでかっていうと、この建物、手抜き工事なんです。元ゼネコンの大悟さんにはそれがわかったんだと思います。これが霊となって現れた理由の半分です。二人が入居してしまわないように、わざと恐ろしい形相で追い返していたんですよ」
「じゃあ、この家をちゃんと修繕すればいいんだな。ここが手抜き工事だったのは、高橋さんの報告書で知って私も調べた。確かにその手の噂のある建築業者だと知ったよ。こんどきちんと検査するつもりだ。問題があれば修繕する」

 高橋もここまでは嵐士と話をしていたから、すぐに納得したようだ。
「大悟君、聞こえているかい? 君の大事な優奈さんは俺が責任を持って一生守るから! 安心してくれ」
 霊が現れることはない。嵐士はどこか拍子抜けしたように肩をすくめると、
「これで解決だな?」

 と話を切り上げようとした。しかし問題はここからだ。手抜き工事問題だけなら高橋のところで話はもっと早くおさまっただろう。
「そんな簡単なことじゃなく……、ええと、残り半分の理由。なんで優奈さんの前にしか大悟さんの幽霊が現れないのかって問題が」

「私を恨んでいるからじゃないの? 大悟君の気持ちに応えられなかったから……。ずっと気づかないで苦しめて、だから思いつめて自殺してしまったんじゃないの?」
 一度は溶けたと思った誤解だが、やはり心のどこかに引っかかるものを感じているのだろう。優奈はやはり恨まれていると解釈してしまっている。

 困ったことにそれはある意味正解だった。大悟も多少は優奈に恨みがましい気持ちを抱いていただろう。ただしそれは、彼女が思っているような理由ではない。
「恨むなら俺だろう。わざわざ社長室から自殺したんだ。君に対する感情じゃない」

 優奈の肩を優しく抱きしめる嵐士。
「ええと、これ、一番大事なとこなんですけど、大きな誤解を解いておきたいです。松本大悟さんは自殺じゃありません。あれは、事故……みたいなものです」

 本当のことだというのに、潤は歯切れの悪い言葉しかでてこない。
「……事故?」
「俺を恨んでるんじゃないのか?」
「恨んでるどころか……ええと、ええと」

 これこそ今回の真相に関わる部分。しかし潤はうまく伝える自信がなかった。
「スパっと言っちゃいなよ」
 ユウキが背中を押してくれる。

「橘さん、大悟さんは恨んでるどころか、あ、あなたのことが好きだったんですよ!」
 思い切って叫ぶ潤。
「は?」
「え?」

 目を点にして立ち尽くす嵐士と優奈。何を言われたのか理解できずにいる。
「いいですか。大悟さんが好きだったのは、優奈さんではなく、社長のほうだったんです!」
 それでもしばらく二人は黙っていたが、数十秒後に悲鳴に近い驚きの声をあげた。

 最終回は、3月15日公開予定です。
この書き下ろし連載企画の主人公・高橋健一のエピソード0が楽しめるのはコチラ!

Twitter Facebook