「プロットを立てたとおりに書けなかったとしても、プロットに合わせて修正する必要はありません。最終的には小説を書き終わることだけが大事なので」

 第101回は堂場瞬一先生をお迎えして、多数のシリーズを同時展開する苦労や、最近ほめられることが多くなったというあることの描写、多忙な執筆生活のサイクルなどについて、語っていただきました。

◆警察小説のプレ横山・ポスト横山/新聞からネタは拾える/起承転結にとらわれないで

――前半で警察小説のリアリティについての話が出ましたが、難しいところですね。

堂場 時期的に横山秀夫さん以前と以後に分けられると思うんですね。昔は捜査一課で殺人事件を扱う話が主流だったんですけど、警察って職種のデパートみたいなところで、いろんな部署があります。捜査一課以外のところでどんな人がどんな仕事をしているのか、あるいは内輪で揉めているとか、そういうことを書くやり方が、横山さん以降は一気に広まってきましたね。

――ミステリは松本清張以前と以後に分けられるといわれていますが、警察小説はやはり横山さん以前と以後ですね。定年後に天下りしたポストの話とか、そういった細かい話も人間ドラマになるんですよね。

堂場 それまで見過ごされていた部分でも小説になるんだ、というのは重要な話ですね。逆にいうと、ネタはどこにでもあるんですよ。我々が普段当たり前だと思っていることが、他の地域に住む人や他の仕事をしている人には全然わからない、初めて見る話だということがいっぱいあります。ですから、ネタを探しに行くんじゃなく、自分の身近なところで見てみるというのもひとつの手です。そこで意外な設定や意外な登場人物につながる可能性もあります。

――それにしても、堂場さんは年間10冊ほども作品を書かれていますが、どうやってネタを見つけているんですか。

堂場 これはね、みなさん新聞を読んでください。意外と見出しだけ読んでスルーしている人が多いですが、ちゃんと本文を読むと「あれ?」と思うような事件がけっこうあるんです。さすがにそのままは使えませんが、ためておくとどこかで役立つものなんです。
 ネタをストックしておくことが大事ですが、でもメモは取りません。メモしておかないと忘れるような話は、大した話じゃないんですよ。面白い話だったら覚えてますから。そうやって、脳内で自動的にネタを選別しているところがありますね。

――長篇を書かれるときは、どのように組み立てられるんですか。

堂場 頭にひっかかっていた事件からストーリーが始まることもありますし、こういう人間を書きたいというキャラクターから始まることもあります。あるいは人物をある特殊なシチュエーションに置きたいという、環境から始まることもあります。これはそのときによってバラバラですね。
 書き方をマニュアル化はしていません。よく「起承転結をしっかりやれ」「転の部分で主人公をピンチに追い込め」「結の部分で事件を解決してハッピーエンドにしろ」みたいなことがいわれますが、たしかにこれを守るとそれなりに書けちゃうんです。でもそれだと、長く書き続けていくうちに行き詰まる。同じパターンになっちゃうんです。とくにシリーズものだと、出てくる人も同じですし。だから、書き方を「こうしよう」と考えたことはないですね。
 よく、フォーマットの話があるじゃないですか。たとえば警察小説であれば、まず「起」で死体が出てくる。「承」で意外な目撃者が出てくるけど、実はこれがレッド・ヘリング(偽の手掛かり)で、「転」のところでは捜査が停滞して内輪揉めが起こったりする。ところが「転」の最後で思わぬ手掛かりが出てきて、「結」で無事解決する。
 なんとなくそういう書き方を教えている本とかが多いんですが、私は少年ジャンプ方式と呼んでいます。主人公に苦労させて、それが努力によって報われてカタルシスを得る。でも、読者は必ずしもカタルシスを求めて本を読むわけではないですよね。もやもやしたりとか、あとで考えさせられたりしたいときもある。

◆「ジャック・リーチャー」に見るチートの面白さ/小道具で人となりを表す/飲食場面の意外な理由とは

堂場 そういうフォーマットのない小説というのもあります。リー・チャイルドの「ジャック・リーチャー」シリーズ(講談社文庫)とか。元軍人の主人公が全米を放浪する――僕は寅さん小説と呼んでいますが、主人公が行く先々で事件に巻き込まれてえらいことになるんですけど、いつも傷一つつかないんですよね。毎回、読むたびに「おまえ何も苦労してないじゃないか」と壁に叩きつけたくなるんですけど、でも世界的に売れている。
 絶対に死なないし傷つかない、絶対に勝つと分かっている、スーパーマンみたいな主人公がなぜ受けちゃうのか。普通はどこかで傷ついたり苦労したりするんですけど、彼はそれがほとんどないんです。これはフォーマットから離れていると思いますね。

――トム・クルーズ主演の『アウトロー』『ジャック・リーチャー NEVER GO BACK』で映画化されているシリーズですね。アクション小説ですが、名探偵なみに推理もはたらかせる。たしかにあまり苦労はしない。ハリウッド映画的というか、できあがったヒーローですね。絶対に負けないし推理能力も戦闘能力もあるし、元軍人のコネクションもある。窮地に立たされても必ず勝つ。

堂場 そういった、起承転結のフォーマットから外れたところでも、いわゆる畑はあるんですよね。もっとフリーダムに書いてもいいんじゃないか。主人公が絶対に負けない、そういうのが成立している世界もあるわけですから、ちょっと悩んでいるんです。最近は、フォーマットで考えるのが正しいのかどうか自信がなくなってきました。

――最近の堂場さんの作品は、だんだん自由になってきたというか、ものを食べたり飲んだりする描写や、音楽の薀蓄などが増えてきましたよね。

堂場 そうなんですよね、読んだ人の感想もそういうのが増えています(笑)。だんだん自分の好みが出てきてしまうんですかね。僕はお酒を飲まないんですけど、登場人物に変な酒の飲み方をさせる場面もあります。変な奴だなと思わせるのに、小道具を使うのは便利なんですよね。
 今回読ませていただいたテキストはどれも短いので、小道具を出して人となりを見せるような余裕はないかもしれませんが、ある程度枚数が使えるときは、非常に効果的です。たとえば、三本の中で最初に読ませていただいた、佐藤祐さんの『責任と倫理と対立と』ですが、主人公の社長が運転している車は何なんでしょう? ベンツなのかレクサスなのか、あるいはマーチとかヴィッツのような小型車なのか。そこで、どんな会社で社長はどんな人なのか、裏側のことまで見えてくるわけです。食べ物や飲み物も、人間は誰でも食べたり飲んだりしますから、人となりを表すのには最適です。それで書くことが増えましたね。

 池波正太郎さんの小説も、飲食の場面の人気が高いですね。でも池波さんは美味しいものを紹介したくて書いているわけじゃなくて、その時代の風俗を食べ物で表すためだとどこかで書いておられました。つまり、我々みんな誤読しているわけです(笑)。まぁいろいろ考えて書いていますけど、作者の意図を離れて読まれるのはしょうがない、と最近は考えています。
 それとね、歳を取るとね、いろいろ食べられないものが出てくるわけですよ。揚げ物とか控えるように言われてね。だから、自分で食べられないものを、主人公が代わりに食べているということもあるかもしれませんね。

◆シリーズが完結すべき理由/新シリーズでのチャレンジ要素は/リアルタイムの問題は書きにくい

――堂場さんはシリーズものを多く書かれていますが、新しく始まるシリーズもあれば、完結して終わるシリーズもあるわけですね。シリーズを終わらせる、というのは苦痛ではないんですか。

堂場 僕は、シリーズは終わらせるべきだと思うんです。シリーズを通してひとつの小説だという見方もあるんじゃないでしょうか。主人公は1冊目と最終巻でどう成長して変わっていったのか、きっちり収めて終わりたいんです。永遠に続けられるシリーズもあると思うしそういうのも書いてはいますが、それはそれとして……『アナザーフェイス』(文春文庫)その他いろいろシリーズがありましたが、10冊なら10冊の中で主人公がどう変化していくか、きっちり書きたかった。だから、シリーズはいつか終わるべきだと思っています。

――『アナザーフェイス』シリーズで主人公をつとめてきた大友鉄に代わり、新シリーズの『ラストライン』(文春文庫)では、岩倉剛という、50歳のベテラン刑事が主人公ですね。

堂場 50歳となると、定年まであと10年ですよね。1冊ごとに1年ずつカウントダウンしていくんです。僕は作家なので定年のない仕事ですが、会社勤めをしている同い年の人たちは、そろそろ会社を辞めるのが見えてくる年齢なわけです。その中で、この10年をどう過ごしていくか。自分が体験できないことを、主人公の目を通して書きたいんです。
 問題はですね、公務員の定年が延長されて65歳になることなんですね。途中でそういう決まりになったらどうするのか(笑)。定年延長になったらどうしようか悩んでいます。彼は家庭に問題を抱えていたりして、微妙な人物設定なんです。離婚協議中で妻と別居しているんだけど恋人がいる。普通に考えてクズですけど、クズではない。どうクズではないのかは読んでいただくしかないんですが、ガツガツしていない人物なんです。淡々としているんだけどやるときはやる。今までの主人公は直情径行型が多かったんですけど、今回は比較的受け身ですね。つまり、ディフェンダーなんですよ。タイトルの『ラストライン』も最終防衛線という意味ですし。
 あえて主人公になりにくい人物を中心にして書いてみる、というのが今回のチャレンジです。彼の今後についても、何歳ごろで離婚が成立して何歳ごろでどうなるか、という年譜が、僕の頭の中ではできています。書いていくうちに変わってしまうかもしれませんが、シリーズものを書き始めるときは、そういう設定は考えてから始めています。

――そういったベテラン刑事が主人公の作品もあれば、70歳の元刑事が主人公の作品もあります。この『白いジオラマ』(中央公論新社)は、元刑事で「防犯アドバイザー」を務める麻生和馬が、引きこもりの孫とともに調査をする物語です。この設定はどこから思いつかれたんですか。

堂場 元気で頑張ってる爺さんが書きたかったんですよ。おせっかいで人のことに口ばかり出している、でも地域の人から頼りにされているような。今の東京とかだとあり得ない設定なので、神奈川県某所のちょっと田舎っぽさが残っているところを舞台にしました。でもおせっかいな爺さんばかりだと鬱陶しくなってしまうので、全然外に出ない、引きこもりの孫と組み合わせました。第一作の『共鳴』(中公文庫)に続く、シリーズ第二作です。

――僕が最近読んだ中では『犬の報酬』(中央公論新社)も印象的でした。これは車の自動運転にまつわる問題を、自動車会社を舞台にして描いています。こういう先進的なテーマを選ばれるのもすごいですね。

堂場 ああいうリアルタイムで動いている問題は、書きにくいんですよ。書いている途中で状況が変わるかもしれない。でも、書いていたときに思っていたほどは、まだ事態が動いていないですね。法律の問題もあって、そう簡単にはいかないんでしょうね。

――それから『焦土の刑事』(講談社)も新シリーズですね。これは1945年を舞台にして、そこから時間軸を動かしていく。

堂場 最近、これぐらいの近過去を舞台にした作品って、海外ミステリでも多くないですか? ドイツでは、ハラルト・ギルバースの『ゲルマニア』(集英社文庫)シリーズが、ナチスドイツいま負けんとす、という状況で繰り広げられるドタバタ劇なわけですが、そういうのがけっこう目立つんです。現代の我々とも直接つながる話なので、一回まとめておこうと。

◆日本人の苗字の限界/働き方改革と警察小説/ネタのアンテナを伸ばして

――でもこんなにシリーズを並行して書いていたら、頭の中がごっちゃになりませんか。

堂場 なります(笑)。人の名前は特にね、直前に書いていた人の名前が次の作品にも出てきちゃう。担当編集者が違うと、気がつかないんです。まあ、日本人の苗字の数には限界があるので、名前は同じだけどまったく別の人間だからまあいいか、と自分を納得させましたけど、続けて読まれた方は「あれ?」と思われたかもしれません。

――昔は吉川英治も、連載小説の中で、一度死なせた人物なのに生きているかのように書いてしまって話題になったことがあります。たくさん書いていると忘れてしまうこともあるんですね。

堂場 数が多いからかもしれませんし、記憶力が危なくなってきたからかもしれませんけど、こういうのはちゃんとデータベース化しておくべきなんでしょうね。でも、面倒くさいんですよ(笑)。
 登場人物の名前とかはしょうがないと思うし、死んだはずの人物をまた出したりとかはないんですけど、テーマ的に似たものを前に書いていたかもしれない、というのは怖いですね。書いていて、どう書いても前と同じに見られるな、と思った作品は捨てることもあります。警察小説という同じ枠内で書いていると、そういう危険性が増していきますね。それを避けるためには、全然違う作品を書くようにしています。警察小説の次にはスポーツ小説を書いたり、歴史小説を書いたりとか。

――今日のテキストで乗鞍さんが書いていたように、これから新しい警察小説を書く人たちもいると思いますが、どういう書き方があると思いますか。

堂場 今警察小説を書くんだったら、働き方改革がテーマになるでしょうね。昔だったら、何日も徹夜して、一ヶ月も休みがなくても犯人を捕まえる、みたいなことを平気でやっていたわけです。だけど今それをやるといろいろ問題が生じる。そこで書けるんじゃないかな。部下を休ませなくちゃいけない上司の苦悩をユーモラスに描くとか。僕は書かないけど(笑)、そういう路線もあると思います。
 どこの職場も、今までの常識を変えていかなくちゃいけない。積極的に休みを取らなくちゃいけない、ワークライフバランスを考えなくちゃいけない。そこをうまく小説に落とし込めている例が、まだあまりないんじゃないかな。

――たしかにこれまでの警察小説のヒーローは、みんなワーカホリックでしたよね。

堂場 たとえば人事が、部下を休ませなくちゃいけなくて困っているとか、あるいは休みすぎて困っているとか、そういうところで一本書けそうだと思うんですよね。何でもネタにはなるんです。

――警察小説はずっと刑事が主役でしたが、いまは違いますからね。

堂場 まだ書かれていない部署もありますし、調べる手はいくらでもありますから、ちょっとアンテナを伸ばして調べていただけると、面白いネタが出てくると思います。

◆一流選手のエゴとは/デビューの感想は「こんなものか」/書くことを作業にしないために

――今日のテキストで、雲原つばきさんはスポーツ小説を書いてこられましたが、これも難しいジャンルですよね。

堂場 難しいですね。基本は、さわやかに書きたいしさわやかに読みたいですよね。若い子を主人公にした場合は、特に。でも僕はね、スポーツマンというのは一流になればなるほど、わがままになるものだと思っています。そもそも、なんでスポーツをやるかといったら、自分が誰よりもできると証明したいからでしょう。そんなことしなくても普通に生活できるし、人と争わないほうが平和じゃないですか。でもやるわけですよ。実はスポーツって、ものすごいエゴが発露する場だと思うんです。それが殺し合いじゃなくルールの中でやるからスポーツになっているわけで。
 僕はスポーツを書くときは、いかにわがままやエゴが選手を動かしているか、を書きたいと思っています。でもスポーツ小説を書くのはだんだんキツくなってきましたね、年齢的に。

――先ほどの講評で、マイナスをプラスに変えるのがいいんだという話がありましたが、これはスポーツ小説の話で、警察小説にはあてはまりませんか。

堂場 いや、警察小説にもあるんじゃないですか。初動捜査で大きなミスをして、それをいかに挽回していくか、とか。要するに、最初に穴を深く掘っておいたほうが、這い上がるのが大変じゃないですか。平地でジャンプするより、穴から這い上がるほうが大変なので、最初に大失敗を作ってしまうのも手ですよね。とくに短い話の場合は。長い話だと、それこそ起承転結の「承」あたりで穴を掘ればいいんですけど、こういう数十枚の話だと、最初に穴を掘っちゃえばいい。
 さっきの講評だと、齋藤さんが「骨折の場面を最初に持ってくればいい」とおっしゃっていたけど、それも手なんですよ。一番はじめに、一番衝撃的なシーンを持ってきて、主人公をドン底に落としちゃう。あとはどう這い上がるか、ですよ。これもフォーマットの話ですけどね。

――書いているとき、読者に与えるカタルシスのことはどのくらい考えていますか。

堂場 僕は考えてないですね。自分の中でいかにストーリーがまとまるか、ということだけです。読者には、みなさんそれぞれ好みがあるじゃないですか。読んで合わない人もいるでしょうし、そこは変に合わせる必要はない。こういうのが好きな人もいる、と思って、ここは自分を信じてやるしかないですね。

――デビューして17年になりますが、書き方も変わってきたんじゃないですか。

堂場 いやあ、何も変わってないですよ。最初からけっこう勝手に書いてきたし、そこはいまも変わってないです。

――こうやって若い人の文章を読まれると、初々しさを感じられますか。それとも「なんて下手なんだ」と思われますか。

堂場 僕はなるべく感情を排して読むようにしていますから、問題点があれば淡々とそこをメモ書きしていますね。上手い下手と感じるのは好みの問題もあるので。僕はそもそも、最初に本が出たとき、あんまり嬉しくなかったんですよ。「こんなものか」みたいな感じで。ごめんなさいね、みなさん。変な話だけど、新聞記者をやってたから、自分の署名記事が紙面に載れば1000万人が読むわけです。それがね、たかが1万部の本が出たってそんなに読まれるわけじゃないですから、「こんなものか」という感じで、あんまり感慨はなかったんです。

――これまでたくさん書かれてきましたが、まだまだ、もっと書きたい気持ちはありますか。

堂場 ありますね。これから書かなくちゃいけないものがいっぱいあって、現在進行形の企画も相当たくさんあるんです。資料を集めたり構想を練ったりしているので、皆さんが想定もしていない作品が数年後に生まれてくると思いますよ。

――以前は1日に100枚書かれたこともあるそうですが、今はどのぐらいですか。

堂場 100枚というのはきわめてレアケースで、今はマックスで55枚です。月産でマックス1500枚ぐらいですね。

――多いですね! いまそんなに書いている作家はいないと思います。書くだけでも大変ですが、編集者に送るときは当然推敲もする。推敲はどのようにされているんですか。

堂場 とくにこれというやり方はないですね。最近は校正ソフトとかもあるんですけど、それはやらないで自分の目に頼っています。校正って機械的にやっても面白くないので、小説を書くことを作業にしたくないんですよね。趣味のままでいたいんです。

◆ラッシュアワーを避けない理由とは/描写は流れに合わせて/大事なのは最後まで書くことだけ

――堂場さんは毎朝8時半に仕事場へ「出勤」する生活をされているそうですが、8時半だとすごく混む時間ですよね。そこを避けて10時に出勤してもいいんじゃないですか。

堂場 いや、そういう勤め人の感覚を忘れたくないんですよ。みんなそうやって苦しんでいるわけですから。言われてみると何にも意味ないんですけどね(笑)。実際は、午前中が一番仕事がはかどるので、なるべく早く出勤したいんです。午前中は仕事をして、昼ごろにジムに行って、午後はまた仕事をして、4時か5時ぐらいにはひと段落つける、という感じです。

――それでこれだけ多くの傑作を書かれているわけですね。もっとお聞きしたいところですが、時間が迫ってきました。質疑応答に入りたいと思います。

テキスト提出者・雲原つばきさん 私の場合、書いていて手が止まってしまうことが多いのですが、そんなときにどう気分転換をされていますか。

堂場 ごめんなさい、止まんないんですよ(笑)。なんとなく毎日「これぐらいは書こう」という最低限の目標はあるので、これはまったく性格の問題なんですけど、そこまで行かないと死ぬほど悔しい。だから止まらないんです。逆に、一日55枚の予定が書きすぎて56枚になったときも、書き過ぎたと後悔して、翌日は54枚に抑えるっていう、よくわからないことをすることもあります(笑)。

テキスト提出者・乗鞍恒成さん 堂場先生の作品を拝読して、短篇と長篇では描写の濃淡が違うように感じました。ここはどのように区別されているのでしょうか。長篇の場合は、全体を書いてから付け加えたりされるのでしょうか。

堂場 あまり意識したことはないんですけど、描写をあとから追加したことはありませんね。やっぱり流れで、必要なときに書いているだけです。短篇はどうしても枚数の制約を受けるので、描写はストーリーを殺さないように最低限にしています。
 長篇は、やっぱり流れですね。ここで周辺の状況を入れておかないと読者にわかりづらいかな、という意識で書いていますから、純粋に必要だから書いているだけ。その程度です。

女性の受講生 私はプロットを立てるのが苦手で、書き始めると「やっぱり変えたほうがいい」となって立て直したりしてしまうんですけど、うまくプロットを立てるためにはどうすればいいでしょうか。

堂場 最終的には小説を書き終わることだけが大事なので、プロットが途中で変わっちゃったら放置していいんじゃないですかね。梗概からはみ出したなと思っても、梗概に合わせて修正する必要はないですよ。書いているうちに、何かそうならざるを得なかった理由があるわけだから、そこは気にしなくていいです。思うがままに書いてください。……カッコいいですね(笑)。
 僕も書いていて、事前のプロットと変わったことはありますが、それで編集者に「話が違うじゃないですか」と言われたことはないです。プロットはあくまで頭の中のたたき台なので、そこを気にしてもしょうがない。大事なのは製品ですから。

――いいですね、今日のテーマが出ましたね(笑)。今日もたいへんいいお話を聞くことができました。ありがとうございました。
(場内大拍手)
 


【講師プロフィール】
◆堂場瞬一(どうば・しゅんいち)氏
 1963年、茨城県生まれ。大学卒業後、読売新聞東京本社に入社。2000年、スポーツ小説『8年』で第13回小説すばる新人賞を受賞してデビュー。第2作は刑事・鳴沢了ものの『雪虫』で、以後、警視庁失踪課・高城賢吾、警視庁追跡捜査係、アナザーフェイス、刑事の挑戦・一之瀬拓真、警視庁犯罪被害者支援課などシリーズ多数。警察小説の第一人者である。スポーツ小説も得意で、高校野球の『大延長』、マラソンの『キング』、駅伝の『チーム』など。日本の出版界に文庫書き下ろしを定着させたベストセラー作家である。

●8年 (集英社文庫)※ 第13回小説すばる新人賞受賞
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●雪虫 (中公文庫)
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