平成30年10月28日(土)、山形県生涯学習センター&山形小説家・ライター講座コラボ企画、作家トークショー「米澤穂信&朝井リョウ -創作と自分-」が、山形市文翔館で開催されました(主催/公益財団法人山形県生涯学習文化財団&山形小説家・ライター講座、後援/ピクシブ株式会社)。大人気作家同士の豪華なトークショーに、多くの聴衆が来場し、会場のホールは満員となりました。

 今回のトークイベントは、平成23年の北方謙三&大沢在昌トークショー、24年の小池真理子&川上弘美トークショー、25年の椎名誠&北上次郎トークショー、26年の逢坂剛&諸田玲子トークショー、27年の阿部和重&中江有里トークショー、28年の角田光代&井上荒野&江國香織トークショー、昨年の桜庭一樹&辻村深月トークショーに続き、8年目の開催となります。
 司会は、今年もフリーライターの瀧井朝世さんがつとめられました。

 お話はまず、明治の建築物がお好きだという米澤さんが、会場の文翔館を見学された感想から始まり、ミステリ作家らしい大時計へのこだわりに、朝井さんは興味を持たれた様子でした。
 おふたりとも同じ岐阜県出身ですが、米澤さんはミステリ、朝井さんは青春小説を主な舞台として活躍されていて、やや分野が異なるためか、今回が初対面だとのこと。遠い山形で初めてお会いになるという不思議な縁ですが、お話には硬さもなく、すぐに盛り上がりました。

 米澤さんは「ミステリはコードの文学」とおっしゃいました。ギターのコードはいくつかの種類しかありませんが、その組み合わせにより曲は無限の広がりを見せます。決まり事が多いともいわれるミステリというジャンルも、それと同じだとのこと。また、朝井さんは、米澤さんの小説について「安心と実績の米澤作品」と、そのクオリティの高さを称えられています。それに対し、米澤さんは朝井さんを「作家としての目と耳がいい」「時代を感じ取る嗅覚と、小説を味わう味覚も優れている」と、その五感の素晴らしさを評価されていたのが、印象的でした。

 現代の社会を切り取った作品で知られる朝井さんは、テレビのコメンテーターを依頼されることもあるそうですが、短いコメントで表現できるほど簡単ではないからこそ、小説としてお書きになるとのこと。また、気を抜くと小説の中に「自分」が出すぎるのでそうならないように注意されているそうですが、米澤さんの作品は、書き手の存在の消し方がとても巧みだ、と朝井さんは評されていました。

 朝井さんがとくにお好きだという、米澤さんの『王とサーカス』では、主人公はジャーナリストになっています。しかし、米澤さんはこの作品でも「書く側」の人間を書いたつもりはなく、むしろニュースを見て楽しんでいる自分は何なのだろう、という問いから出発した物語だとのことです。そこにも、書いている自分と創作との、適切な距離の取り方が表れているようですので、小説を書く人は参考になるのではないでしょうか。
 小説には多くのジャンルがありますが、それぞれの書き手が大きな山の裾野から登っているようなもので、目指す頂上はひとつなのかもしれない、と朝井さんは感じているとのこと。それを聞いた米澤さんは、朝井さんこそ登山チームの頂上アタッカーになり得る作家なのではないか、とおっしゃっていました。

 作品を書くうえでは、プロット上の事故が起こり得る、という話題も出ました。米澤さんが『王とサーカス』を書かれたとき、構想していたトリックが現実には不可能だと判明したのですが、そこでプロットを精査して、より良い作品になるべく再構築したそうです。
 そして、信頼できる編集者の助けを得ることも大事だとのこと。朝井さんも、以前は編集者と内容を相談することが苦手だったそうですが、最近は、頼るべきところはうまく頼ることもできるようになってきた、とおっしゃっていました。

 書いているときに、読者にウケるかどうか、どうすれば本が売れるか、などを考えると、文章が変わってしまうかもしれない、と朝井さんがおっしゃったのも印象的でした。朝井さんの力強い文章は、その姿勢から生まれるのかもしれません。米澤さんも、書く前と書いた後は読者にどう届けるか考えるけど、書いているときは考えない。余計なことを考えると文章が曲がる、と表現されていました。

 ミステリ新人賞の選考委員もされている米澤さんは、応募作の文章に「魔法がかかっている」と感じるものがある、とのことですが、しかし、それだけではミステリとして成立しません。魔法がかかってさえいればいい作品になるわけではない、という米澤さんの意見を聞いて、朝井さんも、書評を書くうえで、面白い作品であれば書評を書けるわけではない、というジレンマについて語っておられました。

 トークショーの終わりには、質疑応答の時間も設けられました。作家志望者からの「取材した知識をどこまで作品に活かせるか」という実践的な問いもあれば、作品が生まれた経緯や映像化に関するファンからの質問もあり、とくに、書き手は主人公の悩みやナルシシズムとどう付き合うべきか、という質問には、朝井さんも深く悩みながら、丁寧にお答えしていました。
 質問に答えていただいた方のみならず、参加された聴衆のみなさんにとって、たいへん実り多いトークショーとなったことでしょう。


文翔館 山形県生涯学習センター
https://www.gakushubunka.jp/bunsyokan/

【講師プロフィール】
◆米澤穂信(よねざわ・ほのぶ)氏(山本周五郎賞作家)
1978年岐阜県生まれ。2000年、『氷菓』(角川文庫)で角川学園小説大賞ミステリー&ホラー部門奨励賞を受賞し、作家としての活動をはじめる。11年『折れた竜骨』(東京創元社)で第64回推理作家協会賞、14年『満願』(新潮社)で第27回山本周五郎賞を受賞。ほかの著書に『王とサーカス』(東京創元社)、『ボトルネック』(新潮社)、『インシテミル』(文藝春秋)、『追想五断章』(集英社)があり、編著に『世界堂書店』(文春文庫)がある。近著は『いまさら翼といわれても』(KADOKAWA)。

●氷菓 (角川文庫)※角川学園小説大賞ミステリー&ホラー部門奨励賞受賞
https://www.amazon.co.jp//dp/4044271011/

●折れた竜骨 (創元推理文庫)※推理作家協会賞受賞
https://www.amazon.co.jp//dp/4488451071/

●満願 (新潮文庫)※山本周五郎賞受賞
https://www.amazon.co.jp//dp/4101287848/

●王とサーカス 大刀洗万智シリーズ (創元推理文庫)
https://www.amazon.co.jp//dp/B07FDBKF8P/

●ボトルネック (新潮文庫)
https://www.amazon.co.jp//dp/4101287813/

●インシテミル (文春文庫)
https://www.amazon.co.jp//dp/4167773708/

●追想五断章 (集英社文庫)
https://www.amazon.co.jp//dp/4087468186/

●いまさら翼といわれても (角川書店)
https://www.amazon.co.jp//dp/4041047617/

●世界堂書店 (文春文庫)
https://www.amazon.co.jp//dp/4167901013/

◆朝井リョウ(あさい・りょう)氏(直木賞作家)
1989年、岐阜県生まれ。小説家。2009年、『桐島、部活やめるってよ』で第22回小説すばる新人賞を受賞しデビュー。11年『チア男子!! 』で第3回高校生が選ぶ天竜文学賞、13年『何者』で第148回直木賞、14年『世界地図の下書き』で第29回坪田譲治文学賞を受賞。他の小説作品に『星やどりの声』、『もういちど生まれる』(第147回直木賞候補)、『少女は卒業しない』、『スペードの3』、『武道館』、『世にも奇妙な君物語』、『ままならないから私とあなた』、『何様』、エッセイ集に『時をかけるゆとり』、『風と共にゆとりぬ』がある。

●桐島、部活やめるってよ (集英社文庫)※小説すばる新人賞受賞   
https://www.amazon.co.jp//dp/4087468178/

●チア男子!! (集英社文庫)※高校生が選ぶ天竜文学賞受賞  
https://www.amazon.co.jp//dp/4087450325/

●何者 (新潮文庫)※直木賞受賞
https://www.amazon.co.jp//dp/4101269319/
  
●世界地図の下書き (集英社文庫)※坪田譲治文学賞受賞     
https://www.amazon.co.jp//dp/4087454525/

●星やどりの声 (角川文庫) 
https://www.amazon.co.jp//dp/4041013356/

●もういちど生まれる (幻冬舎文庫)
https://www.amazon.co.jp//dp/434442171X/

●少女は卒業しない (集英社文庫)
https://www.amazon.co.jp//dp/4087452808/

●スペードの3 (講談社文庫)
https://www.amazon.co.jp//dp/4062936135/

●武道館 (文春文庫)
https://www.amazon.co.jp//dp/4167910284/

●世にも奇妙な君物語 (講談社文庫)
https://www.amazon.co.jp//dp/4065137225/

●ままならないから私とあなた (文藝春秋)
https://www.amazon.co.jp//dp/4163904344/

●何様 (新潮社)
https://www.amazon.co.jp//dp/4103330627/

●時をかけるゆとり (文春文庫)
https://www.amazon.co.jp//dp/4167902532/

●風と共にゆとりぬ (文藝春秋)
https://www.amazon.co.jp//dp/4163906681/

◆瀧井朝世(たきい・あさよ)氏(フリーライター)
1970年生まれ。東京都出身。慶応大学文学部卒業後、出版社勤務を経てフリーライターに。WEB本の雑誌「作家の読書道」、文春オンライン「作家と90分」、『きらら』『波』『anan』『CREA』『SPRiNG』『小説宝石』『小説幻冬』『小説現代』『ミステリーズ!』『読楽』『新刊ニュース』で作家インタビュー、対談、書評を担当。TBS系「王様のブランチ」ブックコーナーのブレーン、横浜BUKATSUDO「贅沢な読書会」モデレーター。著書に『偏愛読書トライアングル』(新潮社)、『あの人とあの本の話』(小学館)。

●偏愛読書トライアングル (新潮社)
https://www.amazon.co.jp//dp/4103512210/

●あの人とあの本の話 (小学館)
https://www.amazon.co.jp//dp/4093886199/

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