累計60万部の大ヒットミステリー『0能者ミナト』で知られる葉山透さん。葉山さんの作品は、毎回表紙のイラストに注目を集めています。作品とイラストの関係について、最終回はお伺いします。

――カバーイラストがどの作品もとても素敵ですが、イラストはどのように決められるのでしょうか?

デビューからしばらくは、編集さんが決めていました。
「0能者ミナト」から、私もイラストレーターさん選びに参加するようになりましたが、基本的には編集さんが何人か候補を選び、その中から決めます。

私も候補を挙げたりするものの、最終的に編集さんが「この方!」と一押しした方に決まっています。
客観的な視点があるからでしょうか。編集さんは本当に作品にピッタリなイラストレーターさんを選んでくださいます。

「霊能者のお値段」は、男性三人という構成が女性向けのように思われて、男性読者に敬遠されたくありませんでした。

かっこいいキャラクターはかっこよく書けて、でも男性にも敬遠されない、老若男女に好感をもってもらえるイラストレーターさんを探して、編集さんが見つけてくださったのが新井さんでした。

専門のイラストレーターさんではなく、アニメーターさんにお願いしたことで、動きがある、すごく新鮮な表紙になったと思います。
この行程は私も興味があるので、編集さんのお話を聞いてみたいです。

――編集さんが新井さんに決めた理由はなんでしょうか?

書店で文庫が並んでいる棚を見て頂くとお分かりかと思いますが、最近はイラストカバーの作品が非常に多いです。カバーイラストを見るだけで「ほんわかしたファンタジー系だな」「バディ(二人組)のミステリー系だな」など、ある程度の傾向が見えてきます。

あとは、その時々で旬のイラストレーターさんというのもいて、注意深く棚を見てみると、2、3割が同じイラストレーターさんのカバーだった、というのもよくあることです。

今回、葉山さんから原稿を頂いた時に、「霊能者なのにメガネにスーツのサラリーマンみたいな高橋さん」がキャッチーだと思ったので、高橋さんをかっこよく描いてくれる人という視点でイラストレーターを探しました。

ただ、「かっこいい」となると、例えば少女漫画家さんに書いてもらうような「女性が好きなイケメン」というカバーが多いんです。でも、葉山さんの作品は、男女問わず楽しめる作品なので、「男性がみてもカッコいい」と思えるイラストであることが大前提でした。   

その基準で、書店やピクシブなどのイラスト投稿サイトで探したりする中で、何人か候補をそろえて、葉山さんにご相談しました。

その中でも、私の一押しが新井さんでした。初めて新井さんのイラストを見たのは文庫『人間失格』のカバーです。太宰治が一人だけ描かれているカバーなのですが、顔のカッコよさだけでなく手の動きに至るまで、佇まいだけでその人物の魅力が伝わってきました。

この人に書いてもらえたら素敵なイラストになるなと思いました。

――イラストを書いてくださった新井さんに、それぞれのキャラクターについて伺いました。

主人公の高橋健一は、原作で一番外見描写が多くイメージわきやすかったです。 
身長はハルトより少し高く設定させてもらいました。神経質そうな表情と整えられた横分けがポイントです

次に三田村潤ですが、「童顔で中学生に間違えられる」とあったので幼い印象にするため前髪を短くしました。あとポーズで若さと青臭さがでればいいなと。服装は描写がなかったので、原作を読みながらこのキャラならどんな着こなしをするか妄想しながら描きました。

最後に花坂ハルトですが、外見はとにかくさわやかイケメン。品のある表情と、あとハルトはムードメーカー的なキャラだと思っているので、面白さ、明るさ表現できたらと考えながらイラストのポーズを決めていきました。

最初に送られてきたキャララフ。身長設定や服装まで、細かく描かれています。

次に送られてきた表紙のラフ。
それぞれのポーズに注目。タイトルを入れる場所の案なども書かれています。

――イラストを描かれる上で大変だったのはどのようなことでしょうか?

普段アニメの仕事では線画までが担当なので、色を決めたり塗ったりするのが、楽しかったり時間がかかったりしました。

そしてこれが色を塗り完成したイラストです。

――表紙もさまざまな行程があって作品の顔になるのですね。最後に葉山さんから、読者さんへのメッセージをお願いします。

キャララフや表紙のラフは、普通は表にでず、私や編集さんだけしか見られないのがもったいないなと、いつも思っていました。
今回、こうして新井さんの貴重なラフを読者さんにもお見せすることができてとても嬉しいです。

本を作る過程では、他にも校閲さんやデザイナーさんなど、さまざまなプロの方がたずさわっています。
今はピクシブ文芸をはじめ、さまざまなネットでの発表の場があり「たくさんの人に読んでもらう」という点では紙の本という形にとらわれることはありません。

電子書籍もとても便利だし、私も利用しています。でも、やっぱり紙の本はいいです。

原稿用紙に手書きでは三行しか書けないと最初に言った私がいうのもどうかと思いますが(笑)、PCで書いていた横書きの文字が、文字数や行数の段組を決めて、紙に縦書きで印刷されたゲラになって送られてくると、ものすごくときめきます。

そこからゲラに校閲さんの朱が入り、表紙のイラストが一つの作品として描き上げられ、デザイナーさんが題字や目次を作り、帯のキャッチを編集さんが考え抜いて、背表紙の色までこだわって決める。

そうして出来上がった一冊の本が書店に並ぶ。
やっぱりそれは素晴らしいことだと思います。

今は文庫書き下ろしも増えていますから、単行本はもちろん、文庫本も読者の皆さんが考えている以上に丁寧に作られています。
売れているから、話題になっているから、という理由だけでなく、ときには本屋さんに行って、じっくりと棚を見て、気になった本があったら手にとって、お気に入りの本を見つけてほしいと思います。

その中に、私の本があったら最高に嬉しいです。

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