累計60万部の大ヒットミステリー『0能者ミナト』で知られる葉山透さん。今回は、ひとつのシリーズをスタートさせてから、人気が長続きさせるために、葉山さんが心がけていることを伺います。

――『9S』シリーズ、『0能者ミナト』シリーズは長く続いていますが、その秘訣や読者を飽きさせないコツを教えてください。

長く続く秘訣は、一にも二にも続刊を出せる程度には売れること、で私自身の努力や工夫でどうにかなるものではないんです(笑)。
これは売り上げ次第かよ、ミモフタもないな、ということではなく、いえ、もちろん売り上げもものすごく大事なんですけど、どういうことかといいますと。

たとえば『0能者ミナト』の一巻を書いたとき、怪異を科学で倒すなんて、何個もネタができるかとすごく不安でした。実際、二話目でいっぱいいっぱい。この先書けるのだろうかと心配で。でも、「重版かかりました」「シリーズを続けられます」「続刊の評判がいいです!」と言われれば、力が湧いてきます。

「これでいいのかな? 受け入れられるかな」と手探りで書いて不安とともに発表したものに、「面白かった」という明確な反響がきたわけで、そうなれば自信を持ってトリックも考えられるし、キャラクターも思いきって動かせます。

――読者の反響が作品作りのモチベーションに繋がっているんですね。

モチベーチョン、というか自信です。意欲ややる気があっても迷いがある状態から、「こっちでいいんだ」と進む道が明確になる感覚、です。よく、読者さんの応援が創作の力になります、て言いますよね。あれはきれいごとでもなんでもなくて、本当にそのままです。脳の構造からも、メンタルな面からも、面白かったです、という言葉、受け入れられたという感覚はシリーズを続ける大きなエネルギーになるんです。

逆にモチベーションは、上手くいかないときや反響が思わしくないときでも、自分自身でしっかり保てないといけないと思います。

ちょっと話がわきにそれますが、シリーズがうまく行っているときの苦労なんて、上手くいかないときや投稿時代に比べれば苦労なんて呼べません。
少なくとも苦労の質がぜんぜん違います。


今ピクシブ文芸に投稿している方の中にも「どうしてダメなんだろう。何がいけないんだろう」って悩んでいる方はたくさんいらっしゃると思います。
答えも出口も見えないなかで、自分が書きたいものがよくわからなくなり、自信も失っていく。

プロになっても、その壁は絶対立ちはだかり続けます。

そんなとき「小説を書きたい」という情熱をどれだけ持ち続けられるのか。そこか分かれ目じゃないでしょうか。

モチベーションを他人の評価に頼っていたら、行き詰ったときに自分で立ち上がれない。
イイネ!がいっぱいもらえるから頑張るんじゃなくて、自分がどうしてもやりたいから頑張る、が先。
って、言うのは簡単なんですが(笑)。

でも、だからこそ「面白かった」っていう反響は本当に力になります。

じゃあ、イイネ!をたくさんもらえたシリーズは苦労が少ないの? っていうとそんなはずはなく(笑)。

シリーズは「反響があった」「一巻を受け入れてくれた読者さんが買ってくれる」という安心感があると同時に、「期待値以上のものを書いて、やっと期待通り」とハードルが上がるものでもあります。

長く続ければなおのこと、ワンパターン化など、避けなければいけないことも増えていく。
なので、続きモノを書くときは「毎回見たいパターン化する部分」と「意外性があると嬉しい部分」を分けます。

――具体的にはどのような作業なのでしょうか?

『0能者ミナト』でたとえると、「毎回皆見たいパターン化する部分」は湊の毒舌やキャラクター同士のかけあいと、「ミナトがかっこよく誰にも出来ないことをする」部分です。そこはブレずに変えない。

逆に、どんな怪異をどういう方法で倒すか、どういうシチュエーションにするか、というのは意外性優先で、どんどん変えてよしとする。自分の中で極力縛りをつくらない。たとえば「怪異ものなんだから、既存の怪異でないと」とか思わない。オリジナル怪異も作っていい。

「伝奇ものなんだからアクションシーンは書かない」とか思わない。アクションシーンも入れてみたり。
あとはもう、意外性は自分の中だけでは限界があるので、地道な努力です。取材をする、関係ありそうな映像や資料を片っ端から見る、とか。でもそれも、参考になりそうなものに絞るとダメで、意外性って、本当に意外なところからやってくるから意外なわけで。

『9S』や『0能者ミナト』の科学的な展開の着想点が、お笑いのバラエティ番組だったり。
アンテナを広げることはもちろん、なんでも受信するようにしてます。

――葉山さんの作品には、怪異や霊、宇宙人(?)など、実在するか分からないモチーフが出てくることが多いですが、その理由があれば教えてください。

小説の書き方は大まかに二つに分かれると思います。一つは現実に起こることを上手くフィクションとして書くパターン。もう一つは現実では決して起きないこと、ありえないことを書くパターン。
私は圧倒的に後者で、好きだった小説、漫画、映画を並べてみれば一目瞭然です
。もう逃げようがない(笑)。

――第一回のインタビューで、「SF」「アクション」「ミステリー」「ファンタジー」の作品が好きだとおっしゃっていましたよね。

じゃあなんでそういうものが好きなの? と真面目に考えるとですね。子供の頃、そんなに上手く人付き合いもできなくて、現実にはつらいことがいっぱいあるなーと感じていました。だから小説とかマンガとか一人で没頭できる世界が好きだったんだと思います。

大人になって、少しは世間と上手くやっていけるようになっても、新聞を読めば世知辛い話、ニュースを見れば痛ましい話が溢れていて、どうせなら、娯楽の時間くらい、何もかも忘れて違う世界に没頭できるようなものを読みたいな、見たいな、と思います。その気持ちも子供のころからかわっていません。

ミステリー小説は? 殺人事件とか、犯罪とか、暗くて現実的なんじゃないのって疑問に思われるかもしれませんが、私が好きだったミステリーは、密室殺人だったり完璧なアリバイだったり雪山山荘が舞台だったり、やっぱりどこまでいっても完全なフィクションなんです。現実世界の犯罪は、そんなファンタジックなものはありません。殺人現場に何度も偶然居合わせる名探偵とかいませんよね(笑)。
受け手としてそういうものを望んできたので、書き手になっても同じです。

デビュー作の「ルーク&レイリア」シリーズは、「ミステリーなのに、一人も死なない明るい大団円」がコンセプトでしたし、『9S』『0能者ミナト』は後者の趣味そのままです。
『それは宇宙人のしわざです』は前者の話になる、と思わせておいて実は後者の話になった。というか後者の部分が加わって、難航していた部分がとんとん拍子に解決されました。骨の髄まで後者の人間だと再認識することに。

『霊能者のお値段』は着想が「霊能者って、現実ではどうなの?」なので、現実的な、前者よりの話に今度こそなるか……と思って書きましたが、そもそも幽霊が普通に出てくる時点で後者でした。
『ニライカナイをさがして』のように、現実的な話も書けるときはあるし、書きたくないわけではないですが、きっと作家としてのデフォルトの設定がそっち側なんだと思います。

第4回は、新作『霊能者のお値段 お祓いコンサルタント高橋健一事務所』について詳しくご紹介します。

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