累計60万部の大ヒットミステリー『0能者ミナト』で知られる葉山透さん。読者を夢中にさせるキャラクターはどうやってつくられるのか。葉山さんのキャラクターづくりのポイントを伺います。

――魅力的なキャラクターを作る上で大事にしていることは何ですか?

自分自身が好きになれて共感できる……と答えようとして、ちょっと違うなと思いました。
感情移入しやすく、共感されるように、好感をもたれるように……と、よく言われますが、フィクションは現実と違って、いい人だから好かれるわけではないですよね。

性格が悪い人でも、極悪人でも、殺人鬼でも、魅力的に書けるのがフィクションのいいところだと思います。

――確かに物語の中では魅力的でも、現実の世界で、身近にいたら嫌だなと思うキャラクターはたくさんいますよね。

そうですよね。できれば、悪人とはかかわりたくないじゃないですか。殺人鬼とかもってのほか(笑)。

これは世界観にも言えることで、ミステリーとか冒険アクションもそうなんですけど、誰だって現実の世界で、自分が殺人現場に居合わせたり、怪異と闘ったり、恐竜に追いかけられたり、なんてしたくないですよね。

でもフィクションなら楽しめる。それと同じで、キャラクターも、悪役とか、ピカレスク的ヒーローを安心して楽しめる、時には共感までできちゃったりするのが、面白いところだと思うんです。

――『0能者ミナト』の九条湊はとても魅力的ですが、現実世界でいたら、少し付き合いづらいかもしれません(笑)。

少しどころか、確実に近寄りません(笑)。でも、湊に共感するところなんてあまりというかほとんどなくても、楽しく書ける。高橋健一もぜんぜん自分とは違うキッチリキッカリした人間だけど、楽しく書ける。竜胆くんや峰島由宇なんてなにもかも違います。共通点皆無。

なのに楽しく書けるのはなんでかなというと、自分では絶対できないことをやってくれるところです。
 
――自分とはまるで違うキャラクターを楽しく描く、とはどういうことか、もう少し具体的にお聞きしていいでしょうか。

峰島由宇なら、か細い女の子が徒手空拳で重装備の兵士を軽々と倒したり、九条湊なら、霊能力がないのに強力な怪異を倒したり。本来かなわないはずの相手をなぎ倒すのは楽しい。

そんな強い系のキャラクターで気をつけているのは、作者はいくらでも「強い能力」を与えられますし、俗にいう主人公補正だってかけられるから、力ばかりに頼るとしらけてしまう。非現実的なヒーロー、ヒロインこそ、最後は「知恵」で解決するようにしています。

竜胆くんや高橋健一は、彼らに比べると普通ですが、「ノー」って言えるところですね。自分のポリシーに反すること、やりたくないことはやらないと言える強さ。それを支えるだけの実力。
これって、日常生活で一番難しくて一番欲しいものだったりしません?(笑)。

自分ではできないこと、といってもさまざまですが、どういうものにせよ、共感って「わかるわかる!」だけじゃなくて、憧れとかいろんなものがあるんだと思います。
 
逆に、彼らをサポートする役割の登場人物たちは、常識的で、良心的で、共感しやすいキャラクターにして、バランスをとっています。
主役や世界観に、自分自身の気持ちや経験を投影させることは、ほとんどありません。でも脇役たちは、自分が普段感じたことを「実感をともなって」言わせてみたり、友人キャラに現実の友人の名前をつけたりしています。

――葉山さんの作品の中心人物は2~3人が多く、彼らの掛け合いは読んでいて楽しいですが、会話を書く上で大切にしていることはなんですか?

ドロドロの愛憎劇とか、ドロドロの三角関係とか、キャラクター同士の気持ちがバラバラになったりとか、そういうものはやらないようにしています。
ただでさえドロドロになって人が死んだり、バラバラ死体が出てきたりするので(笑)、人間関係そのものはシンプルで気持ちよいものにしたいと思っています。

あとは私の作品は、たいてい天才タイプが出てくるので、その人が誰かに説明してくれないと話が進みません。そのための聞き役が必要で、彼らの会話が弾むようにバランスをとります。特にSFやミステリーは説明を読まされている気分にならないように、自然で面白い軽快な会話になるように、心がけています。

――最近の作品では中心人物が2〜3人の場合が多いですが、初期はそうではない作品もありましたよね?

ミニマムなものは初期のころに書いた『ニライカナイをさがして』という私にしては珍しい、登場人物がほとんど二人しか出てこない、ロードムービー風の作品があります。マックスは『9S』で、人物相関図が四十人以上で、彼らが同時にそれぞれの思惑で動きます。

ただ、どんなに登場人物が増えても、また、現実世界でも、基本的に会話は二人が基本、どんなに多くても4、5人くらいが無理なく一緒にしゃべれる限界です。それをふまえて会話を書くようにしています。

私はもとがぐうたらな読者で、面倒くさいとすぐページをとばしたくなります。だから、日常的に無理のない会話、スムースに頭に入ってくる会話を、すごく大事にしています。

次回は、シリーズを続けていくための秘訣について探ります。

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