累計60万部の大ヒットミステリー『0能者ミナト』で知られる葉山透さん。
大胆な世界観と巧みなストーリーテリングで人気の葉山さんが、新人賞に応募したのは今から20年前。文章を書くのが小学生のときから嫌いで、書くこととは縁遠い仕事をしていたという葉山さんに作家になるまでの道のりとターニングポイントをお伺いします。

――書くことは苦手だったそうですが、物語を考えたりするのはお好きだったのでしょうか?。
 
その問いは小説家によく向けられるものですが、私の場合はきっぱり「ノー」です。作文や読書感想文で原稿用紙三枚書くくらいなら、数学のプリントを三十枚やるほうがはるかにマシ、というくらい。

今でも、原稿用紙を目の前に出されて書けといわれたら、三行で脳がフリーズすると思います。タイトル書いて、名前書いて、本文に入る三行目でもう終了です(笑)。

ー書くこととは別に、本を読むことは好きでしたか? 影響をうけた本などがあれば教えてください。

書くことはまったく好きではなかった、と言いましたが、読むことは大好きでした。本は学校の図書館にあるものを片っ端から読んでいました。一番読んでいたのは中学生の頃で、平均すれば一日1.5冊くらい読んでいたと思います。

――どのような作品を読まれていたのでしょうか?

家や図書館にある本を読んでいたので、ジャンルはなんでも読みました。でも、その中で好きになるもの、自分のお小遣いをやりくりして買うもの、となると、やっぱりSF、ファンタジー、ミステリー、ライトノベル(当時のジュブナイル)でした。

SFではアイザック・アシモフ、ラリー・ニーブン。ファンタジーは栗本薫さんのグイン・サーガ、ミステリーはアガサ・クリスティ、エラリー・クイーン。ベタですけども大好きでした。というか、ハヤカワ書房にお世話になりまくりです。

――日本の作品も読まれていましたか?

日本の作家さんは、栗本薫、星新一、高千穂遥、赤川次郎、辻真先、眉村卓、菊池秀行、夢枕漠、平井和正、氷室冴子、新井素子……(すべて敬称略)。趣味がバレるというより、歳がバレますね(笑)。マンガは、兄弟が多かったので、少女マンガも少年マンガも一通り読んできました。マンガは好きなジャンルも多岐にわたりますし、多すぎてあげられないです。

――書くことが嫌いだったのに、なぜ小説を書こうと思われたのでしょうか?

インターネットの普及がきっかけです。読者さんはご存知かと思いますが、私はコンピュータがもともと好きで、パソコンもMacやウィンドウズが出る前から使っていました。ネット環境が整うにしたがって、遠くにいる同じ趣味の人たちと繋がりをもてるようになり、ひょんなきっかけで二次創作を始めました。

横書きのエディタソフトやワープロには慣れ親しんでいたせいか、学校の課題ではなかったせいか、二次創作の小説はわりとすらすら書けました。あ、好きに書くのは楽しいんだな、と思ってから、オリジナル小説に移行するのは自然な流れでした。

――その時はどのようなジャンルの作品をご執筆されていたのでしょうか?

自分が書けるもの、書きたいものもはっきりしていて、今まで自分が好きだったSFやファンタジーやミステリー、キャラクターが魅力的なエンタメ的なものですね。そこに迷いはなく、一般文芸ではないな、とはっきり自覚していましたので、賞に応募するのも、コバルトやソノラマ、富士見ファンタジアのようなレーベルになりました。

余談になりますが、実はコバルトは二次で、ソノラマは一次にもひっかからず落ちています。三回目の富士見で最終選考に残り、デビューできたわけですが、富士見も落ちていたら電撃文庫かスニーカー文庫に応募していたのではないかな、と思います。

ー一次で落ちていたとは意外です。

実はその後、代表作になる「9S〈ナインエス〉」は、ソノラマ文庫に応募して一次も通らず、デビューでお世話になった富士見ファンタジア文庫ではボツになったものです。それが違うレーベルではすんなり通り、ヒットに繋がったわけで、そのときの経験からも、誰かに一回、二回、ダメと言われても、すぐに諦めたりしないようにしています。
縦書きで原稿用紙に格調高い文学を書いてください、と言われたら、瞬時に「無理です」となりますけれど(笑)。

ーお話を考えるときは、まずどこから考え始めますか?

世界観から考えます。キャラクターはもちろん、アクションかミステリーかSFか、というジャンルわけも、そのあとになります。

「9S〈ナインエス〉」は、「峰島勇次郎という消えた天才、彼が残した遺産と呼ばれる超科学が世界中に散らばっている」という世界観が一番最初にあって、それとほぼ同時に「天才を受けつぐ娘の峰島由宇」というキャラクターができました。兵器にもなる超科学、謎の組織、とくれば、バトルやサスペンスは黙っていてもついてくるので、「残された遺産をめぐってテロリストと闘うアクションモノ」と進んでいきます。

そこに、さらに私が好きなSF要素やミステリー要素を入れました。デビュー前の投稿作品が元になっているだけあって、本当に何も考えず、自分の好きなものを全部入れました。そうしたら、何も考えなさすぎて、さすがに編集部から「キャラクターが年寄りすぎる、女の子が少なすぎる」とリテイクが入りました(笑)。そこは素直に直しました。

 応募していたころは「審査員うけ」とか「レーベルの傾向」を、プロになってからは「編集会議で通るか」とか「今の売れ線か」ということを、意識せざるを得ないんですけど、この作品だけは、審査員とか、傾向とか、読者とか、レーベルの傾向とか、売れ筋とか、書くときにぜんぜん考えませんでした。「自分が好きなものを好きなように書こう」というシンプルな気持ちでした。

――もう一つの大ヒットシリーズ『0能者ミナト』はどのように誕生したのでしょうか?

「科学で怪異を倒す」というコンセプト、一話のギミックを最初に思いつきました。一番強烈で読者さんから反響もあった「九条湊」というキャラクターは実はそのあとです。一話を雑誌掲載という形で書いたあと、キャラクターが弱いな、と思って試行錯誤して今の「毒舌で人を人とも思わない」主人公になりました。現代科学で倒すので、どういうカラクリなのか、という謎解き要素も足せます。

そうすると、「霊能者ものなの? 怪異ものなの? SFなの? ミステリーなの? キャラ押しのキャクター文芸なの?」とジャンル分けしづらい物が出来上がります。全部当てはまるし、逆に人によっては「これは正統的な怪異ものではない」「SFとしては甘い」となると思いますが、そこは私自身は読者さんの自由でいいと思っています。

むしろ、いろんな面を持たせることで、たとえば友人に勧めるとき、「SFは苦手だけど」って方に「怪異ものだよ」よか「とにかく湊が私の押しキャラだから読んで!」とか、いろんな勧め方ができたりしませんか?(笑)。

自分の好きな部分に合わせて自由に楽しんでもらえればいいなと思います。

――作品では、個性あふれる怪異とそれを倒す奇想天外な解決法が魅力ですが、アイディアは怪異と解決法、どちらが先でしょうか?

実はどっちでもなくて、「こういう現象は面白いんじゃないか」が最初です。次にそれにあった怪異を考えたり探したりして、最後に解決方法を考えることが多いです。

解決するには現実の科学を使いますし、怪異も実際の伝承からはみ出さないようにしますけど、最初の起点をそこにすると、枠にとらわれたものになってしまいがちです。
奇想天外とおっしゃっていただきましたが、私自身も、その小説ならではの奇想天外さを楽しみに書いていますので、最初の発想を大事にしています。

全長二千メートルのダイダラボッチが出たらすごくない? とか。死なない死刑囚を殺して欲しいってキャッチはかっこいいんじゃない? とか。
まあ、そのあと、どうやって解決するか、主人公と一緒にすごく苦労するんですけど(笑)。

――初めての単行本作品・『それは宇宙人のしわざです』は、オカルト雑誌の編集者とUFOオタクの天才高校生が活躍しますが、どういう流れで誕生したのでしょうか?

超常現象とミステリーが融合したら面白いかな、というアイディアからです。やっぱり世界観からですね。世界観は浮かんだものの、実はそのあと、かなり迷いました。

ライトノベルやキャラクター文芸という文庫棚だと、私の好きかつ得意な「超常現象」「バトルアクション」「SF」的なものでもすんなり通るのですが、単行本ではあまりそちらに寄せられません。

天才の主人公で、安楽椅子探偵で、ヒキコモリで、変わり者で、……と主役の竜胆のキャラはできていったものの、どこにオチをもっていくかすごく考えました。

一話一話の話が出来ても、一冊の本としてどこにもっていけばいいのか。
事件はちゃんと解決したけど、何か足りない。夢とか壮大さとか、最後の盛り上がりとかが、やっぱり欲しい。だからといってバトルやファンタジーにするわけにはいきません。
悩んで悩んで、ふと、最後話のアイディアが出来たとき、一気に私の中で話がかたまって、同時にキャラクターも定まりました。

書き終わってみると、事件がおこり、天才が出てきて、キャラクターが動き、現実の物理法則でミステリー部分を解決しつつ、最後は夢とロマンで終わる、私らしい話になったかなと思います。

――最新作の『霊能者のお値段』はお祓いコンサルタント事務所が舞台ですが、生まれたきっかけを教えてください。

「霊能者のお値段」は、フリーランスのギャラ問題が話題になっていたのがきっかけの一つです。
フリーランスは必要経費や技術、知識習得にかかった費用をひっくるめて、自分自身の仕事に値段をつけますが、外から見ているとわかりにくいですよね。ましてそれが霊能者、なんて怪しげなものになったら、なおさらわかりにくい。

でも、霊能者さんだって電車に乗ったり事務所の家賃を払ったりしているはずで。
霊能者さんって、どうしているのかな? 目に見えないものに、人はなかなかお金を払わないよ、という素朴な疑問から生まれました。今まで書いてきたブッ飛んだ世界観と比べると、とても身近で、一番日常的なお話ですが、やっぱり「払わなければ祓わない霊能者」というアイディアが最初です。

次に高橋健一というキャラクターができて、彼らが解決する事件はどんなものがいいだろう……という順番です。お値段の話なんだから、フリーランスの事情をリアルに面白く書けばいいんじゃないのか? という考えもあったんですけど、やっぱりというか、幽霊は出てくるし人とは違う能力をもった主人公が出てきました。

――この作品は第一話が雑誌掲載されましたが、雑誌と本を比べると、キャラクターが大きく変わっている理由は何ですか?
 
最初は金銭の話だからと、語り部役のもう一人の主人公をフリーランスで働く社会人女性にしたのですが、一話目は書けたのに、二話目以降が上手くいきません。
二話で「払わないなら祓わない」という主人公のところにやってくるのは子供です。周囲の大人が誰も信じてくれないから払えない。じゃあどうするって話なんですが、そこでフリーランスの社会人だと、高橋と同じ立場になってしまう。

「そこをなんとか」「じゃあどうする?」っていう展開を書くのに、似た立ち位置は二人もいらないなと。
さらに書き進めていくと、冷静な高橋に対して感情的になったり、幽霊の騒動に夢中になって無鉄砲な行動したりするシーンが必要になってきました。そういう行動をしても違和感のないキャラクターにする必要が出てきました。

非現実的な部分があるからこそ、キャラクターの行動原理は無理のないものにしないと説得力がありません。
そうやって考えた末に、多少、無鉄砲をやっても面白い高校生男子になりました。
 
こんな感じで、最初は世界観を考え、トリックや物語がかたまってから、語り部をその話にあわせたキャラクターにするという順序が多いです。
逆にいうと、キャラクターは本当に大事にしているので、話が決まってからキャラクターを考えるほうが、無理な行動をさせなくてすむのかな、と思います。
こうして最初にとことん試行錯誤して、世界観とキャラクターをなじませれば、その後はもう、キャラクターたちも自由に動き出します。すごく楽しいです。

第2回は、葉山さん流の魅力的なキャラクターの作り方についてです。

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