「エンターテインメントの基本構造は『三幕構成』になっています。全体を1:2:1に分割して、『設定』『葛藤』『解決』を描く。この構成を意識することで、サプライズやオチをより効果的にすることができます」

 7月の講師には、葉真中顕(はまなか・あき)先生をお迎えした。

 1976年東京都出身。2009年に「ライバル」で角川学芸児童文学賞優秀賞を受賞。2013年には『ロスト・ケア』で日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞し、ミステリの分野に進出。以降『絶叫』『コクーン』『政治的に正しい警察小説』など、意欲的な作品を次々に発表している。
 また今回は、ゲストとして吉田由香氏(光文社)、高部真人氏(幻冬舎)をお迎えした。
 今月の司会は、講座出身作家である深町秋生氏がつとめた。

「こんにちは、深町です。今日は猛暑の中、足を運んでいただきましてありがとうございます。今月は僭越ながら私が司会をつとめさせていただきます。ゲストには、新進気鋭のミステリ作家、葉真中顕さんを、東京からお迎えしました。どうぞよろしくお願いします」
 続いて葉真中氏のあいさつ。

「みなさんどうもはじめまして、葉真中顕と申します。このような形で作品の講評などするのは初めてでして、多少緊張しているんですけれども、みなさんの執筆の助けになるようなお話ができればと思います。今日はよろしくお願いします」

 今回のテキストは、小説が3本。

・雲原つばき『お前さては俺のこと好きだな!?』(30枚)
・安孫子啓子『告白』(54枚)
・松下沙永『パパのモジャ』(45枚)

◆雲原つばき『お前さては俺のこと好きだな!?』(30枚)
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=10050414
 岩井謙太の悩みは、高校入学直前に華麗なるメタモルフォーゼを遂げた親友・飯田友幸への女子からの取次ぎ依頼だった。しかし当の友幸は、何人の女子から告白されようとも「好きな人がいるから」と言って一向に首を縦に振る様子がない。
 ある日、謙太はついに密かに想いを寄せていた後輩から「飯田先輩の好きなタイプを教えてください」と依頼される。その苦い出来事から「こんな悲劇を繰り返してなるものか」という思いで友幸の恋を成就させるべく彼の想い人は一体誰なのか探りを入れる謙太。しかしその過程で、友幸は他ならぬ自分にだけある特別な眼差しを向けていることに気付く。
 親友の恋の相手は、もしかして自分なのではないか──その可能性に困惑しながらも、謙太は恐る恐るその〝答えあわせ〟を行い友幸の秘められた恋心を知る。

・光文社 吉田氏の講評

 リズムもよく一気に読めて、ラストには驚きも仕掛けられた、面白い作品だと思います。
 ただ、冒頭はとてもいい始まり方で引き込まれますが、そのまま読み進めると、誰の台詞なのか、どういう設定なのか場所なのか、一度でするっと入ってこないもどかしさがあって、ちょっともったいないと感じました。部室からテニスコートまでたどる風景も、まわりくどくて混乱させられます。冒頭部分は、とくに丁寧に、優しくわかりやすく、読み手を物語の世界に引き込むところなので、一瞬で情景が伝わるように工夫が必要です。
 飯田友幸の変化という設定が、ありそうでなさそうでいいですね。高校前の春休みに急に容姿が変化してモテ男になるという、ちょっとあり得ない設定ですが、ここで読者を「そういうこともあるかも」と納得させると、成功する作品です。ただ、その飯田くんがいま一つ魅力的に伝わってこない、というのが残念なところです。ここはこの作品の肝なので、彼の魅力についてもっと色濃く描かないと、説得力に欠けてしまいます。
 ラストのどんでん返しは、オチと驚きを優先して人間の描き方が雑になったという印象を受けました。ここはもっと丁寧に書いてほしいところです。ストーリーの動きに沿って人物の心を動かすのではなくて、人の心が動くから物語が動かされる、という、小説を書くうえでの大切なことを、もう一度意識していただけるといいかな、と思いました。

・幻冬舎 高部氏の講評

 僕も非常に面白く拝読しました。会話の感じも、学園ものとしての若者言葉のリアリティが感じられて、これは年配の人には書けない、若い書き手にしか書けないものではないかと思います。
 ただ、人称が一人称なのか三人称なのか曖昧なところが散見されます。基本的に謙太の視点で物語が進行していくので、はっきり謙太の一人称で書いてしまったほうがよかったのではないか、と思われました。
 この物語の肝になっているところは、謙太の家でゲームをしながら会話をする場面だと思うんですけど、そこで、飯田が謙太のことを好きなのかもしれない、と思うきっかけがちょっと弱いなというか。彼はゲイなのかもしれない、という伏線があると、読者もなんとなくそうかもしれないと思いながら読めるんですけど、ここではちょっと唐突な感じがありました。

・深町氏の講評

 私も楽しく読みましたけれども、ツッコミどころが多い小説ではあるかなと思います。どこらへんかと言いますと、これは好みの問題もあるし良し悪しではあるんですけど、「ひりひり」「つやつや」「ちりっと」「かっと」という、擬音的な表現がすごく多いんですね。これはライト層に対してはいいのかなとは思うんですけど、こういう擬音を使えば使うほど、軽快にはなるんですけど、文章が著しく安くなるということは自覚していただきたいかなと思います。これはあくまで私の基準なので、「これが私の文体だ」というのであれば、止めはしませんけれども。
 逆に、擬音が多くて軽快さを生み出している割には、漢字が多い。これは私が講師をやるときに毎回言っていることなんですけど、手書きであればひらがなにするであろう箇所が漢字になっている、パソコンの文体になっていることが多い。具体的に指摘すると、「眩い」とか「頷いた」、「分かんない」などが漢字で書かれています。若い書き手のほうが、漢字を多く使う傾向があるように思いますね。擬音を多用してライトな感じにしているこの文章なら、もうちょっとひらがなにしたほうがいいと思います。パソコンで書く場合は簡単に変換できちゃうので、とくに若い人のほうが、京極夏彦なみに漢字が出てくることが多い(笑)。この文章だと、軽妙なのにやたら漢字が出てくる。ここはもうちょっと注意されたほうがいいかなと思いました。

・葉真中氏の講評

 この作品の、一番の読ませどころは、オチの驚きだと思います。途中で、飯田くんがゲイではないかと疑いを持って、最後にはそうではなかったことがわかるんですけど、性的マイノリティというのは今ホットなモチーフというか、社会的に関心が高まっています。女性向けのBLとはまた違う市場で、多くの作家がセクシュアリティについて書き始めている、流行りのジャンルと言ってしまってもいいでしょう。こういうときは、それだけハードルが上がっていると思ってください。腕のあるプロが書き始めているジャンルなので、どうしてそのテーマを選ぶのか、読ませどころはどこなのか、ということを意識されて、覚悟を持って書くべきモチーフだと思います。
 サプライズのストーリーとして読んだ場合は、ちょっと構造が弱いです。
 これは小説だけでなく、映画の脚本などでも使われるんですけど、「三幕構成」という技法があります。
 全体の長さをだいたい4等分して、これを1:2:1に分ける。
 まず冒頭の第一幕「セットアップ」で、登場人物や設定を紹介します。
 つぎの第二幕は「コンフロンテーション」、対立とか葛藤と呼ばれます。ここで話を転がしていきます。
 そして、この小説ならばオチにあたる、第三幕「レゾリューション」、解決。この三幕で物語を構成する方法が、三幕構成です。横文字を使っていると何か大層なことを言っているように思われるかもしれませんが(笑)、たいていの話は、普通に作ろうとするとこうなるわけで、そんなに大したものではありません。1:2:1という分量も、それほど厳密なものではないし。あくまで、エンターテインメントとして読みやすい物語の基本構造はこうなっている、ということです。
 僕はこの作品、まずタイトルのヒキが強くてキャッチーでいいと思ったんですが、そのタイトルで、主人公が飯田くんのことを「お前さては俺のこと好きだな!?」と疑う話だということは最初からわかってしまうんですね。ところが、その疑いが作品の中で実際に出てくるのは、クライマックスの直前ぐらいなんです。この小説の分量でいうと80%ぐらいまで、読者は、ある程度ネタの割れた状態で読み進めていくことになるんです。それだと話の推進力が弱くなる。しかも、割れたネタを第三幕まで引っ張ってきたら、たいていの人は「これがオチなわけないよな」と気づいてしまうんです。実は主人公のお母さんが好きだった、というオチは意外性があるんですけど、きっと二段オチなんだろうなという前提で読まれてしまうので、サプライズストーリーとしての構成は弱くなってしまいます。
 これは私なりのアドバイスなんですけど、LGBTというモチーフを描いていくのであれば、三幕目で出てきている「疑い」を、まず一幕目に持ってくる。そして、主人公の葛藤を二幕目で描くことで、テーマを深めていくことができます。そして読者を十分葛藤に引きつけた上で、最後にオチをつけることで、サプライズの強度も高まると思います。これはひとつのやり方ですが、全体の構造を意識したうえで、どうやってサプライズのネタを隠すか工夫したほうがいいでしょう。それから、せっかく目新しいテーマを扱うのであれば、そこをどう掘り下げるか、というところを意識して書かれると、いいのではないかと思いました。

◆安孫子啓子『告白』(54枚)
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=10046668
 桐谷祥子は一年前に夫を亡くし、息子の賢一と二人暮らしをしている。息子の賢一は今年三十歳という年齢なのに、彼女の一人もいないようだった。それがある日、紹介したい人がいると祥子に言ってきた。しかし賢一が連れてきた相手は男の人だった。驚く祥子はショックのあまり倒れてしまう。そしてその後、看護師をしている賢一の彼の勤める病院に搬送された。そこで彼女は早川梨花という看護師に出会う。梨花は昔の親友、沙也加にどこか似ていて、数日ではあるが二人はいろいろなことを話す仲となった。祥子はかつて沙也加とあったことを梨花に告白する。そして、祥子は退院後に仕切り直しで息子とその彼氏である隆と梨花を招待してピザ作りをしようと提案する。ある日和室の絵画が落ち、その裏に夫への男の人からの恋文をみつける。自分だけではなく、夫も同性愛者だったと気づく。ピザ作りを賢一と隆と梨花で行う中、祥子は梨花に好きだと告白する。そして、祥子はこれからは自由に生きることを宣言するのだった。

・幻冬舎 高部氏の講評

 全体的に、何が一番書きたかったのかというところがよくわからない感じがしました。祥子というお母さんが、息子がゲイだと知ってショックを受け、でも自分も実は昔、女の人を好きになったことがあった。ちょっと要素が渋滞しているというか、読者を驚かせるために裏切って裏切ってということを繰り返しているうちに、その要素が濃すぎて、ちょっと渋滞しちゃったなという感じがするんですね。
 全体として、説明してしまっている部分が多くて、物語として感情移入しにくいところがあったので、心理描写の中で説明してしまうのではなくて、人物の動きなどを描写することで見せていくように工夫されるといいのではないかと思います。
 一番気になったのは、ゲイである息子たちが、なぜ母親にここまで認めてほしがるのか。いい大人である彼らが、そこにこだわる理由がもうちょっとはっきり描かれていると、いいのではないかと思いました。

・光文社 吉田氏の講評
 私もこの小説は、動きや状況のすべてをなぞって説明しているので、もっと削いですっきりさせるべき作品だと思います。読む者を驚かせよう、楽しませようというたくらみはすごく感じられました。が、伝えたい情報が10あるときは、せいぜい7や8、できれば5や6ぐらい伝える気持ちにとどめて、間違っても12や13と書き込みすぎない。そうしてしまうと、ぺろんとした平板な印象を与えてしまいます。
とくに短篇の場合は、強弱をつけて、いかに立体的な奥行きのある物語にするか、そこが書き手の腕の見せどころだと思います。「削る」というのはとても勇気のいることですが、説明的になっている部分はしっかり削いで、心情はなるべく描写を重ねて伝えるようにするといいですね。
実は、全体的に、とてもくわしく情報や心情を書き込んでいるにもかかわらず、読み手が知りたい部分が欠落してしまっているような印象もあります。たとえば、祥子は夫の定年退職を機にパートに出ますが、どんな仕事なのか一切書かれていない。沙也加と親しくなるきっかけになった、中学時代にはまっていた推理小説というのも、どの作家の何の作品なのか。そういう小さいことの積み重ねで、祥子という人物がより生々しくリアルに迫ってくると思うので、そのあたりは意識していただきたいところですね。

・深町氏の講評
 実のところ、完成度はあまり高くないです。どのあたりかというと、まずタイトルですかね。『告白』という、映画にもなった大ベストセラーがすでにあるわけですから。大ヒットとかぶるようなタイトルはよくないです。タイトルをつけるときは、まず一度ネットで検索してみることをおすすめします。
 もうひとつは、小説は自由に書いていいんですけど厳然としたルールもあるんですね。祥子さんは息子の告白を聞いて、意識を失って倒れてしまいます。そこで賢一の視点になってしまう。お母さんが意識を失っている間のできごとも書かれていますからね。海外小説では、神の視点で書かれる作品もあるんですけど、日本の小説では、章の中で別の視点が入ってくるというのはアウトなんですね。もうひとつ、12頁目にも、梨花と祥子の会話の場面に、梨花の視点で「梨花は本当にそう思っていた」という一文が出てきます。これは小説的にアウトです。祥子は超能力者みたいに梨花の気持ちがわかるわけではないんですから。視点が変わると読者は混乱するので、他人の心情を描くのであれば、その人の行動や表情を描写することで表現するようにしてください。

・葉真中氏の講評

 この作品には、告白の場面が3回出てきますね。さっき言った三幕構成の話に当てはめると、構成はしっかりしていることがわかります。まず第一の告白、息子の同性愛が一幕目、セットアップのところにある。第二幕では、主人公が葛藤する中で、過去の告白が出てくる。これが第二の告白です。そして三幕目で、看護師の女性に告白をする。それぞれのアクトで告白という現象が出てくるんですね。このように、ひとつの物語の中で同じシチュエーションを3回繰り返すのを、「三度の反復」というんですけど、最初の告白は、息子という他者の、第三者の告白です。第二の告白は、回想の中での告白であり、自分が告白を受けているので、第二者の告白です。そして第三幕、最後の告白では、自分が相手に告白している。第一者の告白ですね。つまり、人称が第三者→第二者→第一者と移行しており、当事者性を増していって、おそらくこの作品のテーマである、セクシュアリティの解放が示される。こういう構造になっています。作者の方がどこまで意図されたのかはわかりませんが、お話のかたちはしっかりつくれています。
 ただ、小説としての完成度は、正直、私も高くないと思いました。お皿の盛り付けはいいんだけど、載っている料理が素材そのままというか、小説としての作為を感じませんでした。もっと工夫の余地があるんじゃないかな、と思わせてくれる作品です。書くのが好きな人が、書き飛ばしてしまったような印象を持ったりもしました。
 ではどんな工夫があり得るのか。この作品は、ストーリーの中で偶然に頼っている部分が大きすぎます。読む側としてはご都合主義に思えてしまうので、これを必然に思わせる。個人的にキツいなと思ったのが、三幕のアタマ、夫の手紙が偶然に落ちてくる場面です。こういうところを、必然化するというのがひとつの肝です。これは主人公の変化に直接かかわるきっかけですから、それまでの流れの中で、主人公の心情の変化を呼び起こすようにすべきです。たとえば、夫の浮気を疑っていて、浮気相手のことなんて知りたくもなかったから、夫の書斎には入らなかった。それが、息子や看護師とのかかわりの中で、せめて夫がどんな人を好きだったのか知りたくなった、みたいな変化が起きて、そこで手紙を見つけて夫の本当の性的指向を知る、とか。ヒントが与えられる必然性を、もっと練り込んでいく必要があると思います。
 それから、途中で沙也加さんが自殺したことになっていますね。これは厳しいなと思いました。はっきり書かれてはいないけど、主人公に振られて自殺した可能性がけっこうあるわけですよね。しかも、そのことを沙也加さんの両親は知らない。ここで、本筋とは関係ない倫理問題が発生しているんですね。自分は過去に人を死に追いやったかもしれない、という、これだけで一本の作品ができるぐらい重いテーマが、挿話として入ってしまうのは、構成としてよくないです。全体的に要素が多い小説なので、余計に大きなテーマを入れ込まない工夫も、必要だと思いました。

◆松下沙永『パパのモジャ』(45枚)
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=10046470
昔住んでいたような青い屋根を見て、〈私〉は過去を回想する。
十四才のとき、私は両親と姉との四人家族で暮らしていた。反抗期の私は特に父に対して不満をもつことが多かった。ある日私物を勝手に使われたことをきっかけに、私はますます父を嫌うようになる。そしてその流れのままエビ天を巡る事件が起こり、家族と対立した私は家を飛び出し事故死する。
家の金魚に生まれ変わった私は一連の行動を反省し、父に謝りたいと願うが金魚なので伝えることは難しかった。しかも迂闊な行動のせいで金魚の私もまた死んだ。
 私はさらに生まれ変わり鳩へと姿を変える。そのとき自分の思いを家族に伝える方法が見つかるが、相手のことを考えた結果、やめておこうという結論に達する。
 家族と別れることを選んだ私は、ついに離れる決心をしてベランダから飛び立とうとする。そこで思いがけず父の優しさに触れることができ、後悔だけではない思い出をもち生きていく意思を新たにした。

・吉田氏の講評
 輪廻転生をテーマとした哲学的な作品で面白かったです。冒頭は、鳩あるいは別の生き物である主人公の思いから始まるわけですけれど、とても印象的で、引きつけられました。
気になったのは、登場人物である家族四人の序列が、軍隊のように統制されていると描かれていますが、意外とどこにでもいる普通の仲のよい家族のように感じました。家族の力関係を強調するより、何もかもが気に入らない反抗期の娘のいる家族の物語として描いたほうが、死と転生というテーマがより生きてくるような気がします。
姉の「探偵になりたい」というキャラクターなど、後半のシーンにも味わい深く繋がり、とてもいいですね。金魚から見た景色、鳩になった気持ちなど、面白い設定で、読ませる力があると感じました。姉の気づき、そして、鳩になった主人公が自分の名前も忘れてしまい、訣別を意識する場面も印象深いです。
 細かいところを指摘しますと、冒頭に、「青い屋根」という印象的な色が出てきますが、中盤では「青い外壁のマンション」、後半では「青いマンションの屋根」、ラストでまた「青い屋根」という「青」が何度か出てくるんですが、マンションの全体が青いのか、壁や屋根だけなのか、視覚が揺れてしまっていますね。そのあたりが曖昧だと、せっかくの情景がぼやけてしまうので、そこはきっちり見せてほしいところです。

・高部氏の講評 
 非常に面白く読みました。素晴らしい短篇だと思いました。全体の構成もすごくうまくて、最初に、父と娘の喧嘩のきっかけとなった、ウォッシュボールを使われるところとか、探偵マニアのお姉さんが、鳩になった主人公のモールス信号に気づくところとか、読んでいてシンプルに「おっ」と思わせられる場面でした。
 冒頭に、青い屋根を見ると思い出す、という5行ほどのモノローグがあって、この物語全体が回想であることを示しているんですけど、ここは5行だけじゃなくて、もうちょっと書いてもいいのかなと思いました。それによって、ラストが生きてくるので。ここはもっと書き込むと、全体の構成がさらによくなると思います。

・深町氏の講評

 この作品は完成度が高くて、指摘するところがあまりないので、揚げ足を取ります(笑)。
 おれはね、個人的に「気付いた」「勘付いた」という書き方はしないんですよ。これはひっかかるんですよね。なんでひらがなじゃ駄目なのか、これもパソコンの文体だということだと思うんです。これは私だけじゃなくて、名だたる大作家の方々も多く指摘しているところです。でもこれね、パソコンで入力して変換キーを押すと、一回目はまずこれが出るんですよね。二回ぐらいキーを押さないと、ひらがなにならない。このように勝手に漢字にされてしまうのをそのまま使っちゃうケースが本当に多いので、そこは気をつけていただきたいと思います。
 物語全体を見ると、お父さんがあまりにもいい人すぎますね。反抗期って仕方ないんですけど、物語として見ると、主人公がお父さんに絡むヤクザみたいで(笑)、死んじゃっても可哀想な感じがしないというか、好感が持てない。そういう問題が出てしまいます。やっぱり小説は読み手あってのものですから、主人公には好感を持って読み進めてもらいたい。そのためには、お父さんをもうちょっとガサツな人物に描いて、主人公が死んだあとからお父さんのいいところに気づく、というふうにすると、主人公の成長も描ける。まあ死んじゃってるんですけどね。
ストーリーと人物に深みを持たせるために、もう一回読み返してみて、このパワーバランスでいいのか、お父さんはこの人物設定でいいのか、と考えてみてください。そうすると、より完成度が高くなるのではないかと思います。

・葉真中氏の講評

 技術的には極めて高いレベルにある作品で、文芸誌にプロが発表していてもおかしくないと思います。
 ただ、読み応えということで言うと、若干の物足りなさを感じたのも事実です。具体的に指摘すべきところは少ないんですけど、強いて工夫をするならば、深町さんがおっしゃったようにお父さんをもうちょっと汚く書くのもいいでしょう。ただ、私の実感からいうと、年頃の娘というのは、父親に因縁をつけるヤクザです(笑)。私にも15歳の娘がいるんですけど、本当にこんな感じで、同じタオルを使ったりするとリアルに「消滅しろ」とか言われます(笑)。まあこれは飲み会ですればいい話ですけど。   
 書き出しはこれでもいいんですけど、回想ということで考えると、終盤になると主人公の記憶が曖昧になっていくという重要な設定があるので、それを少し匂わせてもいいのではと思います。また、基本的に、動的な描写から入ったほうが、小説のヒキは強くなるものです。たとえば飛行している描写から始めるなどして、あとから鳥の視点から回想していたんだとわかり、軽いサプライズになるような書き方をしてもいいかもしれない。
 さっきの三幕構成の話に当てはめると、一幕目が主人公の死までを描いていて、二幕目で二度の生まれ変わりがある。姉が「もしかして……」と気づくあたりが、二幕目と三幕目の境界で、三幕目で主人公は、自分のことを家族に知らせないという選択をして旅立つ、という流れになりますね。ボリューム的に、生まれ変わりの部分が面白いので、もうちょっと膨らませてもいいのではと思いました。僕なら、もう一回ぐらい余計に生まれ変わらせます。金魚、鳥、と来ているので、虫がほしいかなと思いましたね(笑)。

 この二幕目が無限に広がる話になっているので、いろいろな挿話を入れて連作短篇にすることもできるし、長篇にも料理できる題材だと思います。現状では2回だけなので、設定をこなしているだけにも感じられますから、読み応えを考えるとここをもっと書き込むと、さらに作品として深くなっていくと思います。
 終わり方もすっきりしていていいんですが、最初と最後で何か変化があると、さらに印象的になります。たぶん一ヶ月ぐらいの間の話になっているんですが、ここで季節の変化を描写していたりすると、主人公の変化を象徴するものになるでしょう。調べたんですが、鳩はとくに繁殖の季節が決まっていない生物なので、好きな季節を設定できます。たとえば冬から春とか、春から夏など、主人公の目から見た視覚的な変化が描かれていると、より小説的になるのかなと思いました。
 完成度は非常に高いのですが、まだ工夫の余地はあると思います。新人賞を目指されるのであれば、技術的には文句なしなので、あとはモチーフの部分で、いま読むに足る、フックになるものを見つけて、肉付けをされると、より多くの人に読まれる作品になるのではと思いました。

※以上の講評に続き、後半では深町氏との対談形式で、小説家としてデビューするまでの「謎の経歴」や、作家としてのキャリアについての考え方、取材のやり方やお互いの作品についてなど、お話していただきました。その模様は、本サイト内「その人の素顔」にてアップいたしますので、そちらもご覧くださいませ。

【講師プロフィール】
◆葉真中顕(はまなか・あき)氏
1976年、東京都生まれ。2009年「ライバル」で第1回角川学芸児童文学賞優秀賞を受賞し、児童文学作家としてデビュー。13年、老人介護を扱った『ロスト・ケア』で第16回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。選考委員の綾辻行人と今野敏に絶賛される。15年、受賞後第一作『絶叫』が吉川英治文学新人賞と日本推理作家協会賞(長編および連作短編集部門)にノミネートされる。他の作品に『ブラック・ドッグ』『コクーン』(吉川英治文学新人賞候補)『政治的に正しい警察小説』など。

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