平成29年10月7日(土)、山形県生涯学習センター&山形小説家・ライター講座コラボ企画、作家トークショー「桜庭一樹×辻村深月 創作の裏側」が、山形市遊学館で開催されました(主催/公益財団法人山形県生涯学習文化財団&山形小説家・ライター講座、後援/ピクシブ株式会社)。直木賞作家同士の豪華なトークを楽しみに、多くの聴衆が来場しました。

 今回のトークイベントは、平成23年の北方謙三&大沢在昌トークショー、24年の小池真理子&川上弘美トークショー、25年の椎名誠&北上次郎トークショー、26年の逢坂剛&諸田玲子トークショー、27年の阿部和重&中江有里トークショー、昨年の角田光代&井上荒野&江國香織トークショーに続き、7年目の開催となります。

 今回の司会は、フリーライターの瀧井朝世さんがつとめました。
 お話はまず、お二人が作家を目指したきっかけについてから始まりました。桜庭さんは、小学生のころから「本に関わる仕事がしたい」と思われていて、作家か書店員か司書になりたかったとのこと。辻村さんは、音楽や漫画や映画を含めたフィクション全般が好きで、その中で小説が最も「(楽器や画材や撮影機材など)何もいらないから」書き始めた、と話されました。そして、中学生のころに、書いていた小説を読んだお友だちに「続きが読みたい」と言われたことが、プロになりたいと思ったきっかけだそうです。辻村さんのペンネームは、小学6年生で『十角館の殺人』を読んで衝撃を受けた、綾辻行人さんから「辻」の一文字をもらった、という秘話も明かされました。

 お二人の、書き方の違いについても話は及び、桜庭さんはラストで読者にどんなカタルシスを与えるか、しっかり決めて書き始めるそうですが、辻村さんはほとんど決まっていないとのこと。自分が何を伝えたいか、というテーマも決まっていないことがあるそうです。しかし、書く舞台がしっかり決まれば、そこを掘っていけば何かが出るという思いで書かれるとのこと。辻村さんの最新作『かがみの孤城』は、中学生たちを主人公に、5月から3月までを描いた物語ですが、夏休みを過ぎたころまで書いて、そこで「わかった!」という瞬間があったそうです。桜庭さんも、ラストは決めていても自由度を残すために、細かいところは決めないこともあり、「決めることと決めないことの兼ね合いが重要」とおっしゃいました。構想を練るときにノートやメモに書くことはありますか、という瀧井さんの問いには、辻村さんは「メモに書いてしまうと、それ以上のアイデアが出なくなる」と答えられました。桜庭さんも、「手書きのゆるいメモならいいけど、携帯メールとかで字にしてしまうと、そこで閉じてしまう」とのこと。「閉じてしまう」という表現に、辻村さんも同感だとおっしゃいました。
 小説を書くという行為は「伝えたくても伝わらない感情に、名前をつけて伝わるようにする」ことだと、桜庭さんは表現されました。また、担当編集者に「熱いコーヒーカップも、取っ手があれば持てますよね。中身は変えなくても、取っ手をつける作業は必要ですよね」と言われてから、よりわかりやすい書き方を工夫するようになったそうです。

 辻村さんも、「読者に想像する余地を残してほしい」と編集者に言われた経験がありましたが、読者を信頼して、書きすぎずに余白を残すことができるようになるまで、しばらくかかったそうです。「小説が美しいのは、読者と作者の共同作業感があるから」とも、辻村さんは表現されました。
 桜庭さんには『GOSICK』という人気シリーズがありますが、辻村さんはシリーズものを書いた経験がありません。辻村さんはシリーズものを執筆することに憧れがあるそうですが、桜庭さんは、人気シリーズはキャラクターのずっと変わらない部分と、シリーズを通して成長したりと、変化する部分の両方が大事、とのことでした。ただし辻村さんは、同じ人物が別の作品にも登場する、スターシステムをいくつかの作品で採用しており、また『ツナグ』の続篇を刊行予定のため、これが初めてのシリーズ作品になるそうです。

 司会の瀧井さんが、新作の執筆予定について質問されました。辻村さんは、『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。』の先が書きたい、との思いで、婚活を題材にした『傲慢と善良』を「週刊朝日」に連載されていますが、『かがみの孤城』で中学生たちのことを書きながら、次の日には打算に満ちた婚活の世界に戻らなければいけない、というつらさもあるそうです。桜庭さんは、19世紀から20世紀、世界大戦を経て変わっていったヨーロッパの近代文学を読み返して、自分も新しい書き方をしてみたい、と思われたそうです。世界の混乱した状況をそのまま写すような不条理な小説を書いてみたい、ともおっしゃっています。

 トークショーの最後には、聴衆との質疑応答コーナーも設けられました。お母さまと大学生の娘さんが、お互いに本の贈り物をしたところ、両方とも辻村さんの『東京會舘とわたし』だった、という素敵なエピソードも飛び出し、満場の笑顔の中、今回のトークショーは閉幕となったのでありました。

※このトークショーの詳しい内容は、12月22日発売の「オール讀物」2018年新年号に掲載されます。

【講師プロフィール】
●桜庭一樹氏(直木賞作家)
/2000年デビュー。04年『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』が、ジャンルを超えて高い評価を受け、07年『赤朽葉家の伝説』で第60回日本推理作家協会賞を受賞。同書は直木賞にもノミネートされた。08年『私の男』で第138回直木賞受賞。他著作に『GOSICK ―ゴシック―』シリーズ、『伏 贋作里見八犬伝』『無花果とムーン』『ほんとうの花を見せにきた』『じごくゆきっ』などがある。

●辻村深月氏(直木賞作家)/1980年山梨県生まれ。千葉大学教育学部卒業。2004年『冷たい校舎の時は止まる』で第31回メフィスト賞を受賞しデビュー。11年『ツナグ』で第32回吉川英治文学新人賞を受賞。12年『鍵のない夢を見る』で第147回直木賞を受賞。他の著作に『サクラ咲く』『ハケンアニメ!』『家族シアター』『朝が来る』『東京會舘とわたし』『かがみの孤城』などがある。

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